東京大学の研究グループらが実験にて、生活習慣病などと関係しているとされる「老化細胞」の除去に成功しました。年をとることで起きる病気の改善・予防につながる可能性があるとして、いま世界中で注目されています。
東京大学医科学研究所の中西真教授らのグループが、11月2日にイギリスの科学誌「ネイチャー」にて「老化を防ぐ研究」を発表。この最新の研究は、免疫チェックポイント阻害剤により、年老いたマウスの老化細胞を取り除いたというものです。自己の免疫が活性化されて老化細胞が減少し、老化に伴う症状の改善も確認できたとされています。
そもそも老化細胞とは、老化を加速させてさまざまな病気を引き起こすと言われている細胞のことです。現在、世界中でこの老化細胞の研究が進められています。
老化細胞は臓器内の細胞が分裂しなくなることで発生し、加齢により増加・蓄積していくとのことです。老化細胞は若年層の体にも存在すると言われており、炎症につながる物質を出し続け、この炎症が病気の一因になっています。
人間の老化細胞を取り除くことができれば、生活習慣病の予防や改善につながることから、健康に過ごせる期間が伸びると言われています。また、老化細胞の研究に関わっている中西教授によると、平均寿命と健康寿命の差が限りなく縮まり、高齢者が長く働く社会につながる可能性があるとのことです。
抗PD-1抗体により肺・肝臓・腎臓の老化細胞が3分の1に
今回の研究では、新たにさまざまな発見があったとされています。その1つとして、老化細胞は免疫機能の攻撃で取り除かれるものの、一部取り除かれない老化細胞もあるという研究結果があげられます。蓄積する老化細胞には、免疫機能が働いていないということが判明しました。
その上で、マウスの老化細胞と人間の細胞から人工的に作った老化細胞を使い、免疫細胞からの攻撃を避ける物質の有無を調べた結果、免疫機能の邪魔をする「PD-L1」という物質が老化細胞の1割弱に存在していました。
このPD-L1が免疫細胞の「PD-1」と結びつくことで、免疫の働きにブレーキをかけ、老化細胞が除去されにくくなる可能性を新たに発見。
また、がん治療に使用される「オプジーボ」と同様の抗PD-1抗体をマウスに使用したところ、肺・肝臓・腎臓の老化細胞が3分の1に減少しました。それに加え、筋力の回復・肝機能の改善が見られたとのことです。
これらはまだマウスでの研究段階なので、人間に対してまったく同じ効果が期待できるわけではありません。そのことで中西教授は「今後ヒトに応用していく上ではいろいろなハードルがあるだろう」と語っていますが、その一方で、さまざまな病気の改善・予防効果に期待ができるとも言われています。