
性犯罪被害者の保護を強化するための新たな法律が、15日に施行されました。この新制度は、性犯罪などの被害者の名前が起訴状など刑事手続きの書類に記載される際、加害者に秘匿されるというものです。
これにより、被害者が加害者から再び狙われるという再被害のリスクが減少することが期待されています。しかし、この制度には、刑事弁護人から被告側の反証が困難になる可能性があるといった懸念も示されています。
改正刑訴法に基づくこの制度では、主に性犯罪の被告に送る起訴状を抄本にすることが可能となり、警察官が容疑者に示す逮捕状にも氏名などが記載されていない書面を使用します。さらに、弁護人には特定の条件下でのみ被告に知らせない形で氏名などが記載された謄本を提供することになります。
このように、被害者の情報保護と被告の防御権のバランスを取りながら、被害者への再被害防止を目指しています。この新制度の導入は、被害者のプライバシー保護と安全を確保する重要なステップです。
新制度が始まったことに対して、ネット上では「被害者のプライバシー保護が進むのは良いこと」「加害者に対してもっと厳格化してほしい」「被害者の希望に沿えば良いだけだと思う」などの意見が寄せられています。
刑事弁護を専門とする弁護士「冤罪を生む可能性」
性犯罪被害者の保護を目的とした新たな法律の施行が社会に与える影響は多岐にわたります。性暴力撲滅に取り組むNPO法人「しあわせなみだ」の中野宏美理事は、「被害者の心理的負担を減らす上での秘匿の効果は非常に大きい」と強調します。
一方で、現行の性犯罪に関する起訴率は約3割に留まっており、被害者が自身の氏名が加害者に知られることを恐れて不起訴を望むケースも少なくありません。このような背景から、改正法の施行は被害者の泣き寝入りを防ぎ、より厳格な処罰を可能にすると期待されています。
しかし、刑事弁護を専門とする久保有希子弁護士は、「被告が『全く身に覚えがない』と主張した場合、被告と被害者の関係や被害申告の理由を調べる必要があるが、被告が被害者名を把握できないと調査が難しい」とした上で、「その結果として冤罪が生まれる可能性もある」と指摘しています。
また、刑事訴訟法に詳しい辻本典央教授も、弁護活動に支障が出る可能性があると指摘し、検察官には説明責任が必要となると話しました。さらに、改正法が性犯罪だけでなく「被害者や遺族らの名誉が著しく害される恐れのある事件」にも適用される点には懸念が示されており、刑事手続きの過度な匿名化が市民の「知る権利」に影響を及ぼす可能性があるとの見方もあります。