日本の「医療被ばく」の恐怖 レントゲンやCT検査の数は世界でダントツ

「日本の「医療被ばく」の恐怖 レントゲンやCT検査の数は世界でダントツ」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

健康診断の時。病気になった時。手術を受けなければいけなくなった時。

そんな時に、大活躍するのがレントゲンやCT検査、透視検査など放射線を用いた診断ツールです。
特に、レントゲンやCT検査は、現代の医学では病気の診断や治療に不可欠といっても過言ではありません。

これら放射線を用いた検査は、適切にコントロールされていれば、病気の診断や治療に多くの利益をもたらすものの、過剰な被ばくは健康リスクを増加させる可能性があります。

特に、日本では医療被ばくの割合が大きく、世界の平均的な医療被ばくの値に対して約6倍、先進諸国と比べても2倍以上と高いとも言われています。

どうして日本だけが、ずば抜けてこんなにも医療被ばくが多いのでしょうか。

今回は、日本での医療被ばくの現状とその裏側について解説していきます。

実は2種類ある「医療被ばく」

そもそもみなさんは「医療被ばく」とは何かご存じですか?

放射線に体が晒されると体に悪影響を及ぼす・・・くらいは知っていると思いますが、あまり実感として湧かない人がほとんどなのではないでしょうか。

被ばくとは、「放射線にばく露する(さらされる)こと」を指します。
原爆や地震の影響で、原子力発電所から放射線物質が漏れるなどして放射線にさらされた場合も「被ばく」です。

実は、放射線は自然界にも存在しており、日常生活の中でも、身のまわりにある放射線を受けています。
例えば、東京からニューヨークまで飛行機を使って移動するだけで、0.11〜0.16ミリシーベルトの放射線を受けます。
また、日本で1年間普通に暮らしただけで、平均2.1ミリシーベルトの放射線被ばくをしていると言われています。

ですが、実際に私たちが一番放射線をあびる機会が多いのは、「放射線を用いた検査や治療」をするときです。

例えば、代表的な医療機器の被ばく量は以下の通りです。

  • 一般レントゲン撮影(胸部正面):0.06ミリシーベルト
  • CT検査:5ミリシーベルト~30ミリシーベルト
  • 透視検査:5ミリシーベルト~30ミリシーベルト
  • PET検査:2ミリシーベルト~20ミリシーベルト

簡単にいうと、1回CT検査を受けるだけで、日本で1年自然に浴びる量と同等になるということです。
したがって、医療機器の影響を私たちは普段から考える必要があります。

これらの放射線被ばくによって起こった被害のことを、「医療被ばく」と呼んでいます。

では、放射線で被ばくするとどんな影響が現れるのでしょうか?

被ばくは「確定的影響」と「確率的影響」の2種類に分けられます。

  • 確定的影響:ある「境界線」(=しきい値)以下なら影響が生じないが、境界線を超えると一気に疾患のリスクが生じるもの。
  • 確率的影響:境界線などはなく、放射線をあびる量(=線量)が多くなるほど発症率が上昇するもの。

例えば、放射線でよく知られている副作用に、「脱毛」や「皮膚障害」、「不妊」などがありますが、これらはみな「確定的影響」です。
ある境界線を超えなければ、発生する確率は1%未満です。
しかし、その境界線を超えたら、一気に可能性が上がってきます。

逆に少しからでも線量に応じて影響が現れる頻度が高まるのは「確率的影響」です。
これには「がん」や「遺伝子的影響」が含まれます。

では、線量で人体に悪影響が出てくるのか。
確率的影響は「あびればあびる程」なのですが、がんの場合、100ミリシーベルト被ばくすると、致死的ながんの確率が0.5%高まると言われています。

他の確定的影響については以下の通りです。

  • 胎児の流産、奇形:しきい値 100ミリシーベルト
  • 皮膚の発赤:しきい値 3,000ミリシーベルト
  • 脱毛:しきい値 3,000ミリシーベルト
  • 不妊:しきい値 3,000ミリシーベルト
  • 白内障:しきい値 5,000ミリシーベルト
  • 皮膚潰瘍:しきい値 10,000ミリシーベルト

つまり、もし妊娠適齢期の女性の場合、CT検査は1回5~30ミリシーベルトと言われているので、「4回~20回CT検査を受けていたら、胎児の流産や奇形の可能性が出てくるので気を付けましょう」ということになるわけですね。

実際、多くの論文で、放射線による遺伝子レベルでの悪影響が指摘されています。

このように、何気なく行っているレントゲンやCT検査によって、実は私たちの体は少なからず放射線被ばくの害が蓄積している・・・これが医療被ばくの怖さです。

参照:
環境庁「第3章 放射線による健康影響 3.1 人体への影響」
Lin Shi, Satoshi Tashiro. Estimation of the effects of medical diagnostic radiation exposure based on DNA damage.Journal of Radiation Research, Volume 59, Issue suppl_2, April 2018, Pages ii121–ii129

日本での「医療被ばく」は世界でもトップクラス

自分の健康を守るために受けているレントゲンやCT検査で、逆に体に悪影響を及ぼしてしまう「医療被ばく」。

実は、日本における国民一人あたりの被ばく線量の内訳では、「医療被ばく」が最も大きな割合を占めており、諸外国と比べ、医療被ばくが多いことが指摘されています。

Berringtonらの報告によると、15か国の診断用X線検査の発がんリスクを推定したところ、日本人のガンの3.2%は、レントゲンやCT検査といった診断用X線によって引き起こされたのではないかとも推定されています。

この原因の1つに、CT検査の手軽さが挙げられます。

2023年のOECDからの最新のデータによると、人口100万人あたりのCTの台数を諸外国で比較したところ、以下のようになっています。(日本では2020年のデータが最新のため2020年比較)

順位CT台数
1日本115.7台
2オーストラリア69.57台
3アイスランド46.39台
4ギリシャ43.74台
5アメリカ42.58台
6デンマーク40.64台
7韓国40.59台
表1.CT台数の国別ランキング(人口100万人あたり)

このように見ると、日本だけ「桁が違う」CT台数を保有しているのがわかります。
CTをそれだけ保有しているということは、それだけCT検査が身近に受けられる証拠であり、手軽にCT検査が出来る体制が整っていると言えます。

もちろん、病気を見つけるためにCT検査が必須な場合もあります。
しかし、「ちょっとした病気でも何とか見つけたい」と思ってしまう日本人気質が、こうしたCT検査、レントゲン検査の偏重を生んでしまっているのかもしれません。

こうした背景から、日本では、年間延べ1億件以上の放射線診断が行われ、放射線治療を受ける癌患者は年間16万人を超え、さらにどんどん増加しています。
そして、医療被ばくによる一人あたりの実効線量は、年間3.9ミリシーベルトと推定され、日常生活で過ごした場合(=2.1ミリシーベルト)の約2倍にもなっています。

今後、私たち1人ひとりが、もっと医療被ばくに対して、もっと注意を払うべきではないでしょうか。

参照:
OECD Stat「Healthcare Resources : Medical technology. Computed Tomography scanners, total.」
首相官邸「暮らしの中の放射線被ばく ―医療被ばくの現状―」
Berrington de González A, Darby S:Risk of cancer from diagnostic X-rays:estimates for the UK and 14 other countries. Lancet. 2004;363(9406):345- 351

「医療被ばく」を避けるために私たちが普段できること

CT検査やレントゲン検査など、検査が充実している分起こりやすい「医療被ばく」。
私たちにできることはなんでしょうか。

例えば、次のようなことを意識してみてはいかがでしょうか。

①ドクターショッピングをしない

自分が病気にかかったとして、医師からの説明や診断に納得がいかないこともあるでしょう。
しかし、そのために何軒もドクターショッピングをしてしまうと、何回も似たような検査をしてしまうこともあります。

というのも、患者さんから「他院で行ったレントゲン検査やCT検査では問題なかった」と言われても、他院の医師から診療情報提供書を受けていなければ、どんな画像だったのかわかりません。

したがって、もう一回検査の受け直しをせざるを得ないこともよくあるのです。

繰り返す検査は、もちろん医療被ばくの最たるものです。
そのため、安易にドクターショッピングをせず、特にCT検査が必要な検査の場合、検査の受け直しが起こらないようにCD媒体などで画像をもらっておくなどの対策が必要です。

②放射線検査を行った記録を取っておく

放射線検査をしたなら、記録をとっておくとよいでしょう。
生涯のうちに、放射線検査はそこまで行いません。
健康診断の時や大病を患った時以外、特にCT検査を行う機会はなかなかないはずです。

そこで記録をとっておくと、「CT検査は生涯で5回受けたから、要注意だな」など、自分の立ち位置がわかるはずです。

もちろん、CT検査でしかわからない病気などもあるので、「CT検査=悪」ではありません。
医師が必要と判断したなら、それに従うようにしつつ、CT検査を受けたくない場合は、今の被ばく量を伝えつつ、代替案を一緒に模索してもらうとよいでしょう。

③無用な放射線検査はしない

最近は、健康診断以上のがん検診や人間ドックなどで、CT検査を含めた高額な検査を気軽に受けられるようになりました。

「肺がんを発見するために低線量CT検査が有用である」などのデータもあり、全ての人間ドックの検査を否定するものではありませんが、医療被ばくを考えずに「全部一気に調べたい」となると、一気に確定的影響のラインまで放射線被ばくが及んでしまう可能性が高くなります。

定期的に自身の健康を見直すのも大切ですが、過剰な検査にはリスクがつきもの。
医療被ばくにも目を向けて、上手に医学的な検査を利用していただきたいと思います。

参照:
厚生労働省「医療被ばくの適正管理のあり方について」
放射線・臨床検査分科会「CT 検査による医療被ばくの低減に関する提言」

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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