日本の医療を支える「病院」や「クリニック」。
しかし、街を歩いていて「なんでこんな同じようなクリニックばかりなんだろ?」と思ったことはありませんか?
一方、地方ではクリニックや病院が全然なくて「車や電車を乗り継いで病院に通っている」という方も珍しくありません。
こうした、クリニックや病院施設が地域ごとや科目別に偏っていることを「偏在化」といいます。
もし日本の医療機関の「偏在化」がなくなれば、地域格差がなくなりもっと日本が住みやすい国になるはずです。
今回は、医療の地域格差の現状や科目別にみた「医師の偏在化」について、一緒に見ていきましょう。
都道府県別にみた「医師の偏在化」の実態は?
そもそも、医師はどこに多いか知っていますか?
厚生労働省が発行している「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、令和2年12月31日現在における全国の届出「医師数」は339,623人います。
そして、人口10万対医師数は256.6という状況です。
単純に平均すると、1人の医師が390人くらいの患者さんを見ていることになりますね。
では、これを都道府県別に見てみるとどうでしょうか。
実は、多くの県で見てみると次のようになっています。
順位 | 都道府県 | 医師数 |
1 | 徳島県 | 338.4人 |
2 | 京都府 | 332.6人 |
3 | 高知県 | 332.0人 |
4 | 東京都 | 320.9人 |
5 | 岡山県 | 320.1人 |
全国 | 256.6人 |
実は、東京都は、医師に恵まれているのですが、トップ3には入っていないのです。
では、逆に医師が少ない県はどこなのか。次の通りとなります。
順位 | 都道府県 | 医師数 |
1 | 埼玉県 | 177.8人 |
2 | 茨城県 | 193.8人 |
3 | 新潟県 | 204.3人 |
4 | 福島県 | 205.7人 |
5 | 千葉県 | 205.8人 |
トップの徳島県とワーストの埼玉県を比較してみると、単純に埼玉県の医師数は、徳島県の半分強くらいとなっています。
医師数が半分ということは、それだけ1人あたりの医師が多くの患者さんを診なければいけないということ。
徳島県では1人の医師で295人の患者さんを診ればよいことになりますが、埼玉県では、1人の医師で562人の患者さんを診る必要があるのです。
みなさんは562人の名前と病気や顔…覚えていられますか?
埼玉県で医療をすることはどれほど大変かうかがえるでしょう。
科目別でもみられる「医師の偏在化」
「医師」といっても1人の医師がどんな患者さんでも診られるわけではありません。医師によって「消化器が得意」とか「呼吸器が得意」といった専門分野があります。
特になかなか替えが効きにくいのが「外科」「小児科」「産婦人科」です。外科は言わずもがな、手術に特化しているので、手術でしか対応できない疾患の場合もあるので、外科医はどの都道府県にもある程度いなくてはいけません。
小児科も15歳未満の小児科特有の疾患の場合は、小児科でしか扱えないこともたくさんあります。そして、子育てや街づくり、子供作りに欠かせないのが産婦人科の存在ですよね。
実は、こうした診療科目別でも都道府県で偏りがみられます。
例えば、主たる診療科が「小児科」の医師数(15歳未満人口10万対)を都道府県別にみてみると、鳥取県が182.4人と最も多く、茨城県が94.4人と最も少なくなっています。その差は約「2倍」です。
専門医だけで言及したとしても、鳥取県が 144.4人と最も多く、宮崎県が64.9人と最も少ない状況となっています。
産婦人科の場合だと、15〜49歳の女性人口10万あたりの医師数で比較した結果、鳥取県が67.5人と最も多く、埼玉県が31.8人と最も少なくなっています。専門資格で考えると、徳島県が66.3人と最も多く、埼玉県が32.5人と最も少なくなっていますね。
鳥取県は比較的周産期に強い県ですね。
逆に埼玉県は全体の医師数も一番少ないながら、産婦人科医の医師数もワーストとなっています。10万人あたりの女性あたり32.5人ということは、1医師あたり3,076人の「妊娠するかもしれない女性」を診なければいけないということ。ものすごい数と責任ですね。
また、外科の医師数を都道府県(従業地)別にみると、岡山県32.1人と最も多く、埼
玉県が14.9人と最も少なくなっていますし、専門医で考えても京都府が26.1人と最も多く、新潟県が12.2人と最も少ない状況です。
特に際立つ外科医の少なさ
このように見てみると、都道府県別での地域格差もありながら、科目別でも「医師の偏在化」が目立ちますね。
特に、近年深刻な問題になってきているのは、花形職業としてもち上げられやすい「外科医」です。
2018年に新専門医制度が開始されて以来、外科専攻医採用者数はわずかながら増加しています。しかし、2022年の採用者数は852人と、2021年の904人より52人減少してきています。
専攻医全体に対する割合も9.8%から9.0%に低下し、2020年の9.1%を下回る数字です。
外科は、他の科と違って、どんな臓器にも「手術」が必要な疾患が存在する以上、非常に幅広い臓器に対応しなければなりません。
それにも関わらず新規採用者数が852人というのは、あまりにも少ない数字ですよね。
令和2年度に厚生労働省から発行された「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、外科医は2020年には27,946人となっています。
手術は1人ではできません。助手を含めると、2〜3人は必要です。
そう考えると、日本の外科医は、地域の格差と相まって本当に不足している状況なのです。
参考文献
日本外科学会「外科医希望者の伸び悩みについての再考」
令和2(2020)年 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
「医師の偏在化」をなくすために
では、医師の偏在化をなくすためにはどうすればよいのでしょう?
「国で医師を配置すればよいのでは?」と考えるかもしれません。
しかし実は、医師の偏在化は重大な問題をはらんでいます。
例えば、あなたが医師になったとして、上から「あなたは内科志望だけど、外科医が足りないから、〇〇県に外科医として働いてください」と言われたらどうでしょう?
「他人に自分の人生を決められるのはいや」「家族がいるから〇〇県にいくのも納得できない」と思うのはごく自然ですよね?
昔は医局制度があって、診療科目は選べたものの、勤務先は「医局」が決定していました。個人の意志に関わらずです。
しかし、フリーランスの医師が増え、転職エージェントやマッチングサイトなども増え、今や自由に勤務先を個人で選ぶケースが増えてきています。
となると、利便性が高く、教育水準も高い都心部になるか、過疎が強くなりすぎて派遣医師が行く地域に医師が集中し、上記意外の地域が医師が少ないといった自体は、もはや「自明の理」なのです。
では、どうするか。
それは、各診療科・各都道府県の現状をありのままに伝え、どの都道府県にいっても「魅力的にうつる」医療システムを構築すること。これに尽きるでしょう。
例えば、「〇〇という疾患に強いのは〇〇県」といったように、病気ごとでの特色を出してみたり、独自の教育システムを構築するのも1つの手です。
幸い、今の診療報酬の計算は、地方であろうが都心部であろうが、「同じ」。
つまり同じ給料のはずです。
昔と違い、個人が尊重される時代にある今、各診療科・各都道府県での「オリジナリティあふれる魅力」が求められています。
参考文献:
1.厚生労働省.令和2(2020)年「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
2.日本外科学会.「外科医希望者の伸び悩みについての再考」
3.厚生労働省.令和2(2020)年「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」