政府はインターネット上で作成・保管できる「デジタル遺言制度」の創設を調整すると発表しました。署名や押印に代わる本人確認手段や改ざん防止の仕組みを作るとのことです。
法務省が有識者らで構成する研究会を年内に立ち上げ、2024年3月を目処に新制度の方向性を提言します。現行の制度において法的効力がある遺言書は、本人が紙に直筆する自筆証書遺言、公証人に作成を依頼する公正証書遺言、封書した遺言書を公証役場に持参する秘密証書遺言の3種類です。
自筆遺言には国による保管制度があり、法務省が2018年に発表した統計では、作成済みと作成予定の合計で1,204万人もの需要がありました。一方で公正証書遺言は2022年に11万1,977件の利用があり、秘密証書遺言の利用はほとんどありません。
新制度であるデジタル遺言では、自筆遺言をパソコンやスマートフォンで作成し、クラウド上などに保管するという案があがっています。現在の自筆遺言との主な違いは以下の通りです。
現在の自筆証書遺言 | デジタル遺言 | |
---|---|---|
作成方法 | 真意確認のため全文自筆 | ネット上で顔撮影などと組み合わせて作成 |
押印や署名 | 本人確認の手段として押印 | 電子署名などで代替 |
保管方法 | 紙で保管、国による保管制度も | クラウド上などに保管。ブロックチェーン技術で改ざん防止 |
デジタル遺言は現在の自筆遺言に比べて作りやすい
現在の自筆遺言は要件を正しく守っていなければ、法的効力がなくなってしまいます。具体的には、遺言者本人が全文を自筆で書く、作成した日付を正確に自筆で書く、氏名を自筆で書く、印鑑を押す、訂正には印を押して訂正箇所を書いて署名する、といった細かい要件が存在します。
不動産や現預金を相続する場合は財産目録を作成する必要もあるため、高齢者が正しく自筆遺言を作成するのは困難です。その一方で、デジタル遺言はフォーマットに沿って入力するだけなので、知識がない方でも作成しやすい傾向にあります。
また、紙の遺言書と違って紛失するリスクがなく、ブロックチェーンの技術によって改ざんされにくいのも特徴です。最新技術を用いて相続対策サービスを手がけるサムライセキュリティの浜川智最高経営責任者は、「デジタル化で遺言作成の利便性が高まれば利用者の裾野が広がる」という見解を示しています。
海外ではデジタル遺言の整備が進んでいるのもあり、日本でも安全性や実効性を担保した制度の設計が進んでいます。なお、ネット上では「悪用が怖い」「ブロックチェーンなら納得」「本人確認が不安」など、さまざまな意見が寄せられています。