一見華やかな美容師の世界 その裏側とは

美容師が使っているはさみの写真

美容師とは、美容室に来店されたお客様の髪の毛のカット、セット、カラーリング、パーマなど、髪の毛のお手入れ全般の美容術を行う方々です。人の容姿を美しくする仕事です。

美容師になるには、厚生労働大臣が指定する理容師養成施設又は美容師養成施設を卒業し、美容師国家試験に合格する必要があります。

しかし、その華やかな仕事の裏側には、美容師が直面する様々な問題があること、知っていますか?

今回は、美容師の仕事の魅力とともに、その「裏側」にある健康問題や年収について解説します。

みんなの憧れの職業「美容師」

美容師という職業は、多くの人々にとって憧れの存在ですよね。

  • 担当美容師に憧れたことがある
  • おしゃれが好きで、都会のカリスマ美容師にしか髪を切ってもらわない
  • 話が上手な美容師に美容に関する的確なアドバイスをもらっている

という方は多いのではないでしょうか。

実際、美容師になろうと思ったきっかけの1つとして、「担当してもらった美容師さんに憧れた」という声が多く聞かれます。

手際よくカットやスタイリングをする姿は美容師さんの最大の魅力の一つで、そんな活躍する美容師さんに憧れて「自分も美容師になる!」と感じるのも納得です。

美容師という職業は、名実ともに人を喜ばせることができる、やりがいや魅力のある仕事です。

もちろん、美容師は高い技術が求められるため、憧れだけでは難しい仕事ではありますが、人を喜ばせることができます。

今や美容師は「コンビニ」より多い

そんな憧れを具体化するように、年々美容師の数は増えています。「美容室はコンビニエンスストアや信号機の数よりも多い」と言われることもあるほどです。

厚生労働省の「令和3年度衛生行政報告例の概況」によると、令和3年(2021年)の美容室の店舗数は、前年度から6333軒増の26万4223軒(前年度比2.5%増)となっています。美容室は右肩あがりに増加しているのです。そして従業美容師数は前年度から1万1540人増の56万1475人となっています。

このように美容師人気はとどまるところを知りません。

しかし、表にした通り、店舗当たりの1日の平均来店客数は減少しています。

平日休日
0-4人56.7%28.5%
5-9人21.5%24.3%
10-14人7.4%9.5%
15-19人3.2%3.5%
20-24人1.4%2.1%
25-29人1.1%1.1%
30人以上0.7%1.8%
不詳8.1%29.7%
表.1日の平均来店客数別構成割合(厚生労働省大臣官房統計情報部「衛生行政報告例」2015)

そして、美容室は人気である一方、健康リスクにもさらされる「きつい職業」でもあるのです。
(参照:厚生労働省「令和3年度衛生行政報告例の概況」

美容師は「憧れ」の裏側で健康リスクも晒される「きつい」職業

美容師は憧れの裏側で健康リスクにさらされやすい…これは、あまり周知されていることではありません。

美容院は多種多様な有害な化学物質が使用されているため、美容師が体調不良に陥ったり、アトピー性皮膚炎や喘息を発症したり、不妊で悩んだり・・・と多くの問題を抱える場所になります。

では、美容師はどんな健康リスクが言われているのでしょうか。

① 不妊と妊娠合併症

美容師は、毛染め・ケラチントリートメント・パーマなどのサービスで使用される多くの化学物質に毎日触れています。

これらの化学物質に少量触れることは無害かもしれませんが、一貫して化学物質に触れ続けることで、健康問題が生じることがあります。

その1つが「不妊症」や「自然流産」の可能性です。ある論文によると「不妊症と自然中絶は、他の職業の女性よりも女性美容師の方が1.3倍高かった」としています。
(参照:Infertility and spontaneous abortion among female hairdressers: the Hordaland Health Study. N. J Occup Environ Med. 2008 Dec; 50(12):1371-7

② 呼吸器に関する問題

美容師は、アンモニアやホルムアルデヒドなどの化学物質に触れることで、呼吸器に関する問題を引き起こす可能性があります。

イランで美容師として働く女性 140 名を調査した論文によると「咳、喘鳴、息切れ、胸の圧迫感などの呼吸器症状は、美容師では他の職業と比べて有意に多かった( p  <0.05)」としています。
(参照:Occupational exposures and respiratory symptoms and lung function among hairdressers in Iran: a cross-sectional study. Int Arch Occup Environ Health. 2021; 94(5): 877–887)

③ 接触性皮膚炎やアレルギーの問題 

美容師は、頻繁に水や化学物質に触れることで、接触性皮膚炎やアレルギーを引き起こす可能性があります。

特に美容師が経験する皮膚トラブルで一番多いのは「手湿疹」です。ある論文によると、美容師1年目には20.3%の方が皮膚トラブルに見舞われ、皮膚トラブルに悩まされている方は38.4%にものぼるとされています。
(参照:Prevalence and incidence of hand eczema in hairdressers—A systematic review and meta-analysis of the published literature from 2000–2021

④ 筋骨格系の問題

 美容師は、一日中立ち仕事をすることが多いため、筋骨格系の障害を引き起こす可能性があります。特に、手を頻繁に使うことで、手根管症候群(手の神経や筋肉の病気)を発症するリスクがあります。
(参照:Work‐related musculoskeletal disorders and associated risk factors among urban metropolitan hairdressers in India. J Occup Health. 2021 Jan-Dec; 63(1): e12200

このように、数々の健康リスクがあるのが、美容師。後述する年収問題もあいまって、なかなか定着しない職業の1つでもあります。

実際、厚生労働省が公表している「令和2年賃金構造基本統計調査」によると、美容師・理容師の平均勤続年数は5.2年とされています。

全産業の11.9年(男性13.4年、女性9.3年)であることを考えると、美容師の勤続年数は他の職業の勤続年数の半分以下。
美容師は、ほかの職業と比べても離職の多い仕事であることがわかりますね。しかし、これはマイナスに考えるばかりではなく、離職率の高い医療業界でもそうですが、「資格」を有していることによって、悪条件から逃れて容易に好条件に移れる利点でもあるかもしれません。
(参照:厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査 結果の概況」

キツいわりに美容師の平均年収は低い。しかしトップクラスになると…

美容師の健康リスクとあいまって、美容師の非常に厳しい現実の1つが「年収問題」です。

実際、2022年の賃金構造基本統計調査から算出された理容・美容師の賃金(決まって支給する給与額)は26万7500円で、これに年間の賞与などを加えて算出した年収は330万1400円となっています。

2020年の329万9800円をわずかに上回り、これまでの最高額を更新したものの、他の職業と比較しても、そこまで多い賃金ではありません。

さらにパートなど短時間労働の理容・美容師の時給は1319円で、傾向としては緩やかに上昇しているものの、昨今急増する物価高などを考えると、決して高い時給でないことがうかがえるでしょう。
しかも、学んで美容師国家試験に合格(表2参照)したにもかかわらず、前述の通り長くは続かないし、今時の「センス」が問われるのも「美容師」の特徴です。そのため、いわゆる年功序列ではありません。実際の統計でも「理容・美容師の年収は30〜34歳までは上昇するが、それ以降はほぼ横ばいに推移し、55〜59歳は大きく落ち込む」とされています。

受験申込者数19,852人
受験者数19,505人
合格者数17,266人
合格率88.5%
表2.第47回美容師国家試験(2023.3.31発表)

ただし「トップスタイリスト」「美容師の店長」になると年収800万〜1000万の方もいますし、トップスタイリストになると芸能人など有名人とのコネクションも多く出てきます。

そういう意味で美容師は「夢のある職業」ですね。
(参照:  理美容ニュース

まとめ: 尊敬すべき職業、それが「美容師」

以前は髪を切る美容師という職業「人体を切る外科医の仕事を兼ねて行っていました。

髪は人の印象を大きく変えます。

そして、一度スタイルを作ってしまうと、数ヶ月の間は変えることがなかなかできません。

その意味で1回のカットは、数ヶ月分のライフスタイルを決めるといえるくらい大切なこと。

そう考えると、美容師さんってとっても大切な役割ですよね。

ネットで「美容師」を検索すると多数ヒットする、「美容師の40代定年説」。

キツい裏側も紹介しましたが、余りある「夢と憧れと尊敬」に満ちた職業が「美容師」です。周りでかかりつけの美容師さんがいたら、ぜひ一度感謝の言葉を伝えてみてください。

参考文献:
1.厚生労働省. 美容業の実態と経営改善の方策
2.Wolfgang Uter,Jeanne D Johansen,Martin S Havmose,et.al. Protocol for a systematic review on systemic and skin toxicity of important hazardous hair and nail cosmetic ingredients in hairdressers.BMJ open. 2021 Dec 06;11(12);e050612. pii: e050612
3.Sanja Kezic,Roberto Nunez,Željka Babić,et al.Occupational Exposure of Hairdressers to Airborne Hazardous Chemicals: A Scoping Review. International journal of environmental research and public health. 2022 03 31;19(7); pii: 4176
4.厚生労働省.美容業界概要
5.厚生労働省.理容・美容のページ
6.厚生労働省.「新規短大等卒就職者の産業別離職状況」

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