
NASA(アメリカ航空宇宙局)は、将来の火星有人探査に向けて、原子力ロケットのエンジン開発を目指しています。2023年1月24日には国防高等研究計画局(DARPA)と連携し、核熱推進(NTP)ロケットエンジンの実証実験を、早ければ2027年に行う計画を発表しました。
原子力ロケットの強みは、火星への飛行時間を短縮できることです。飛行時間を短縮すると、宇宙放射線の被爆や微小重力環境下での生活に伴う宇宙飛行士の健康リスクの低減につながります。また、食料などの必要物資を軽減でき、実験装置などをより多く積載できるのも利点です。
新しい推進システムが実現すれば、有人ミッションのための火星への旅を45日に短縮できるとのことです。NASAと深い関わりを持つ米フロリダ大学ライアン・ゴス教授は、「太陽系の深宇宙探査に革命をもたらす」とコメントしました。
ライアン・ゴス教授が提案するコンセプト
今回の計画で欠かせない核熱推進とは、太陽系での有人ミッションに適したロケット推進技術のことです。NASAはこの核熱推進技術を長年にわたって研究しており、初期段階の研究を対象とした助成プログラム「NIAC」の2023年度の助成先として、核熱推進と原子力電気推進を組み合わせたライアン・ゴス教授のコンセプトを選出しました。
ライアン・ゴス教授のコンセプトでは、「NERVA」の技術を応用させた最新の核熱推進で、化学ロケットの2倍の900秒の比推力を実現できるとのことです。
また、衝撃波を利用して空気を圧縮する「ウェーブローター」を搭載することで、比推力は1,400~2,000秒となり、さらに原子力電気推進を組み合わせれば、比推力を1,800~4,000秒まで高められる可能性があるとされています。
現時点のロケットだと火星まで約250日かかる
1969年に人類初の月面着陸に成功したアポロ11月は、地球から月に到着するまで4日と6時間かかっています。一方、宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、現在の技術では地球から火星までは、約250日もの年月を必要とするとのことです。
火星の軌道は真円ではなく、少し歪んでいることから、火星に向かうタイミングが重要だとされます。また火星から地球に戻ってくるまでの日数は、行きと同じ約250日だと思われがちですが、地球と火星の位置関係により、それ以上の年月を必要とする可能性があるとのことです。
その点、NASAが発表した最新のロケットが実現すれば、45日という短い日数で火星まで到達できます。火星の調査や移住計画がより現実味を帯びることになるでしょう。