動物咬傷は放っておくととっても危険!飼い犬・飼い猫に噛まれたら

「動物咬傷は放っておくととっても危険!飼い犬・飼い猫に噛まれたら」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター小児科)

犬や猫などのペットは、日常を豊かにしてくれる大切な家族です。
しかし、いくら仲が良いペットでも、ふとした弾みに噛まれてしまい、怪我をすることはあるかもしれません。

動物に噛まれることを、「動物咬傷」(どうぶつこうしょう)といいます。

動物咬傷の中では、犬咬傷(いぬこうしょう)が約90%、猫咬傷(ねここうしょう)は約10%程度です。
この動物咬傷は、ただの怪我とは異なり、放っておくと最悪の場合、死に至ることもあります。

いくら可愛い飼い犬・飼い猫でも、噛まれてしまった時には病院を受診する必要があるのです。
今回は、犬や猫の動物咬傷はどのように危険なのかについて解説していきます。

動物咬傷の危険性

「飼い犬や飼い猫に噛まれたけど、小さな傷ですぐに血が止まったので、別に病院に行かなくもいいか。」

こんなことをつい考えてしまいそうですが、これは非常に危険です。

動物咬傷では、出血などの外傷ももちろん危険ではあるのですが、それ以上に危険なのが「感染症」です。

動物の口の中には、非常に多くの細菌が存在しています。
動物に噛まれて皮膚に傷を負ったり、傷口を舐められたりすると、動物の口の中に存在する細菌が傷の中や血液の中に侵入してしまいます。

噛まれた部分の感染症を起こすと、その部分が熱を持って腫れたり、膿が出たりすることがあります。
適切な治療をしないと、傷が治らなかったり、強い痛みや腫れなどの症状が出たりしてしまいます。

さらに、傷口から入った細菌が血管内に入り血液内で増殖して、全身を巡ると身体中に細菌の影響が出ます。

全身性の発熱を引き起こしたり、細菌の影響で血管が開いてしまい、血圧が一気に低下したりという強烈な症状が出ることがあり、このような状態を「敗血症」と言います。

敗血症は内科の緊急疾患の一つで、命に関わる病態です。
実際、飼い犬に噛まれた人が、傷は大したことがないにも関わらず、噛まれた数日後に急変して死亡した事例の報告があります。
(参照:日救急医会誌. 2020; 31: 29-34)

このように、傷は大したことがなくても、細菌感染を起こして死に至る場合があるので、飼い犬や飼い猫に噛まれた場合には、必ず病院を受診してください。

ここでは、救急外来における動物咬傷に対する医師のマニュアルを抜粋して、表にまとめました。

1.. 針を刺したような穿通創は裂創よりも2倍感染の危険率が高い。そのため穿通創では、デブリードマン(患部の壊死組織をメスで取り除く手術)を行い、しっかり中まで消毒すること。
2犬咬傷は、ほとんど抗菌薬投与は必要ないが、猫咬傷は、全例抗菌薬を投与したほうがよい。
3握りこぶしのMP関節(第3関節:指の付け根の関節)付近に外傷(歯形)がある場合は、外傷が関節にも及んでいるものとして、厳重に対応する(入院も考慮すること)。
4咬傷の縫合時には、なるべく組織内に糸を残さない。
表.救急外来における動物咬傷へのマニュアル抜粋

(参照:寺沢秀一、島田耕文、林寛之 (著)『研修医当直御法度 第6版』(三輪書店))

噛まれた時に実際どうしたらいい?

ここまで、動物咬傷の危険性について解説をしました。

とりあえず病院に行けばいいというのはわかったけど、行くまでに何をしておけばいいのかわからないという人も多いと思いますので、犬や猫に噛まれた時の実際の対応について解説していきます。

まずは、傷の状態の確認です。
出血があるようなら、タオルなどで抑えて圧迫止血を試みます。
少しでも菌の侵入を防ぐために、水道水で傷口をよく洗ってください。
出血や傷の大きさが大したことがなかったとしても、必ず病院には受診してください。
外科、もしくは皮膚科のある病院に連絡を取り、受診しましょう。

病院に受診した時には必ず医師に、どんな動物にどのように噛まれたのかを話してください。
医師に単なる傷口として見せると、感染の可能性を考えず、単なる傷口の処置だけされて、感染を防げない場合があります。

病院ではどんな治療をする?

病院では、猫咬傷の場合には必ず抗菌薬による治療を行います。
犬咬傷は、ほとんど抗菌薬投与は必要ないと考えられています。

それは感染率が、猫(40%)>犬(4~5%)>ネズミ(2%)と報告されているためです。

また、破傷風の予防注射を打つことがあります。
抗菌薬投与を行なった上で、傷口を十分に洗浄すると、多くの傷はきれいに治ります。

傷口が大きく開いている場合には、糸で縫合することがあります。
しかし、ぴったりと縫合すると雑菌を閉じ込めてしまうため、縫合は行わないか、もしくは傷を軽くよせる程度に縫合を行います。
動物咬傷の場合は縫合しないのが基本です。

感染がひどい時には、皮膚や組織が壊死(血流が途絶えたりして皮膚や組織が腐ったようになってしまうこと)する場合があります。
その場合には、壊死した部分を切り取る必要があります。
大きな欠損が生じた場合には、形成外科医師により欠損した部分をきれいな形に直す治療をする場合もあります。
(参照:MSDマニュアル プロフェッショナル版

狂犬病の危険性は?

よく狂犬病の心配をされる方がいらっしゃいますが、日本国内で噛まれた場合には、狂犬病を心配する必要はありません。

狂犬病予防法に基づき、犬の飼い主には、犬の登録と予防注射が義務付けられていることもあり、日本は狂犬病の発症のない国となっています。

ただし、海外旅行中などで海外にいる時に、犬に噛まれた場合は、狂犬病ワクチンの接種が必要になることがあります。

我が国でもネパールやフィリピンなどからの帰国者で狂犬病を発症した例が報告されています。
(参照:狂犬病に関するQ&Aについて|厚生労働省

狂犬病は発症すると100%死亡します。
発症を確実に防ぐために、ワクチンプログラムを必ず完了させることが必要です。
必ず、できるだけ早く医師に相談してください。

まとめ

今回は、放っておくと非常に危険な「動物咬傷」について解説しました。
きちんと対策を取れば、重症化することを防ぐことができます。
大したことがない傷であっても必ず病院を受診してください。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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