10分程度にまとめた「ファスト映画」を動画投稿サイトで無断公開したとして、大手映画会社など13社は20代の男女2人に対して高額な損害賠償を求めました。この裁判では、被害者の請求通り、東京地方裁判所は加害者に総額5億円の賠償を命じました。
男女2人が動画公開で得た広告収益は約700万円だとされており、裁判所が命じた賠償額はその金額を遥かに上回ります。なぜ裁判所はおよそ70倍の賠償を命じたのか、と疑問に思う方もいるでしょう。
この件について、総合法律事務所(東京都荒川区)の阿部由羅弁護士は、「利益を上回る賠償は珍しくない」と回答しています。著作権侵害を含む「不法行為」に基づく損害賠償は、被害者が被った損害を基準にして金額が決定されるとのことです。
阿部由羅弁護士は続けて「今回の判決では、著作権法114条1項の規定を根拠に、大手映画会社などが被った損害額が算出されたものと考えられる」と説明しました。また、今回のケースでは「再生数×1販売単位当たりの逸失利益」を、損害額とすることができるそうです。
実際、判決では映画のレンタル価格である1作品当たり400円を基準にして考えられ、損害額は1再生当たり200円の逸失利益が認められました。この逸失利益である200円に再生数をかけた結果、損害賠償は約70倍の総額5億円にまで膨れ上がったのです。
著作権侵害による利益を大幅に上回る判決は問題ないのか?
著作権侵害による利益を大幅に上回った判決について、阿部由羅弁護士は「被害者が被った損害を基準に賠償額が決定されるので、法律上は問題ありません」と語っています。
著作権侵害の場合は、被害者が主張する損害額の算定方法について、いくつか選択肢があるとのことです。著作権法114条2項には、侵害者(加害者)が得た利益の額を損害額と推定する規定があり、この規定を選択すれば、加害者が得た利益の額に等しい額を主張することが可能だと言います。
しかし、今回の裁判では、114条1項の算定方法を選択した可能性が極めて高いため、加害者の利益ではなく逸失利益を基準として算出されたとのことです。このような利益を上回る賠償が命じられることは、決して珍しくないとされています。
なお、男女2人が賠償額を払わなかった場合、被害者は加害者の財産について強制執行を申し出ることができます。加害者の自己破産については、悪意で加えたものとして判断される可能性があるため、破産を申し立てても承認されない可能性もあるとのことです。