2023年、最高裁判所は戸籍上の性別変更に生殖能力を失う手術を求めることは違憲だと判断しました。この判決を受け、岩手県内でも新たな一歩を踏み出した人がいます。
一関市の会社員・大滝洸氏(27)は手術を受けることなく、女性から男性への戸籍上の性別変更が認められました。大滝洸氏は中学生の頃から自身の性別と心のギャップに悩んでいましたが、手術は望んでいませんでした。
「戸籍上女性であることは変わらない。これを事実として受け止めてどこまでやるか…」と葛藤していた大滝洸氏でしたが、最高裁の判断を機に、盛岡家庭裁判所に性別変更を申し立てました。
「手術するという要件がなくなり、初めて自分事として考えた。権利を得ることから始めないとちゃんと人生を送れないんじゃないかと思った」と大滝洸氏は語ります。そして5月22日、ついに戸籍上の性別が男性に変更されたのです。
大滝洸氏の勇気ある行動は、SNSを通じて多くの共感を呼びました。同じ悩みを抱える人々に希望の光を示し、社会的マイノリティーの地位向上を目指すパレード「いわてレインボーマーチ」では堂々と生きる大切さを訴えました。
「そんな道もあるよと選択肢を示したかった。大学卒業までに手術して身を隠すというモデルもある。(手術を)後でするのであっても、自分の人生選択で急いでほしくない」と若い世代にメッセージを送っています。
岩手県内で、手術なしでの戸籍上の性別変更が認められたのは初めてのケースとされます。大滝洸氏の挑戦は、性別に悩む人々に新たな選択肢を示したといえるでしょう。
性別適合手術なしでの戸籍上の性別変更の事例
大滝洸氏と同様に、性別適合手術なしで戸籍上の性別変更を求める動きは全国的に広がっています。
静岡市の会社社長・安池中也氏(54)は、2001年に性同一性障害と診断され、ホルモン治療を開始しました。2024年2月、性別適合手術なしでの戸籍上の性別変更を求める家事審判を申し立て、静岡家裁はこれを認める決定を下しました。
安池中也氏は区役所で祝福の言葉をかけられた一方、差別的なメールも多数寄せられたと明かしています。しかし、こうした逆風にも負けず、自分らしく生きる道を選択した勇気は多くの人々に希望を与えていることでしょう。
一方、岡山県新庄村に住む臼井崇来人氏(50)も、性別適合手術なしで戸籍上の性別変更が認められました。臼井崇来人氏は2023年12月、岡山家裁津山支部に性別変更を申し立て、同支部は手術を事実上の要件とした特例法の規定は憲法違反と判断し、性別変更を認めました。
今後も、性別に悩む人々が自分らしい人生を歩むための選択肢が広がっていくことが期待されます。