重症心不全の患者に対し、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った心臓の筋肉細胞を塊にして注入する世界初の治験に成功したと、慶応大学の福田恵一教授らが発表しました。福田恵一教授らによると、2022年12月に東京女子医科大学病院で、重い心不全の60代の男性に健康な人のiPS細胞から作った心筋細胞の塊である心筋球を、約5万個注入したとのことです。
冠動脈の血液の流れをよくするバイパス手術も同時に行ったとしており、現在経過は良好で、肥大していた心室が縮小するなど、一定の改善効果も見られました。合併症なども現時点ではなく、移植した細胞が成長して心筋が再生すれば、心臓移植に代わる根本的な治療法につながる可能性があるとされています。
心不全の特徴|治験の安全性と有効性
そもそも心不全とは、全身に血液を送り出す心臓のポンプ機能が低下し、血液をうまく送り出せない病気のことです。国内の患者数は約120万人で、2030年には130万人に達すると言われています。
原因は複数考えられており、血管が詰まってしまう心筋梗塞や狭心症、動脈硬化や塩分の摂り過ぎなどで起こる高血圧、心臓の筋肉に異常をきたす心筋症、先天的な心臓の疾患などが挙げられます。
今回実施した治験は、今後およそ1年以上にわたって安全性と有効性を評価するとしています。また、福田恵一教授らは今後約2年間で治験をさらに9人で行い、安全性と有効性が確認されれば、治療法として国に申請するとのことです。
福田恵一教授は10日に行われた記者会見にて、「新たな治療法をできる限り早く患者に届けたい」と語りました。
2020年1月に大阪大がiPS細胞由来の心筋細胞移植を初めて実施
大阪大の澤芳樹教授らのチームは2020年1月27日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った「心筋シート」を重症心不全患者の心臓に移植する治験を始めたと発表しました。iPS細胞から作った組織を心臓に移植するのは世界初だとされ、1例目の移植を1月中に実施しています。
約3年かけて計10例を実施する予定で、移植の効果や安全性を確認します。当時、深刻なドナー不足である重症心不全に対する新たな治療法として、世間から注目を集めていました。
2020年12月には、試験計画前半として計画されていた第3例目の被験者まで移植を完了し、現在も心機能の改善を狙う治験を続けています。