経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本は先進国の中で、睡眠時間が最も少ないことがわかっています。
さて、あなたのお子さんはきちんと眠れていますか?
睡眠はとても重要です。
どんなにバランスのよい食事を用意して、子どもが運動や勉強を頑張ってやっても、睡眠が適切にとれていなければ効力が半減してしまいます。
しかし、子どもがどれだけ寝ることが適切なのか、意外と知らないのではないでしょうか。
今回は、睡眠の大切さと、現在のとりまく睡眠の状況、医学的に正しい睡眠時間や睡眠の質の高め方について、とくに幼稚園児についてわかりやすく解説していきます。
(参照:OECD, Gender data portal 2021: Time use across the world)
睡眠は子供の成長にとって欠かせない
睡眠がいかに子どもの成長にとって大切なのかは数多くの研究で明らかになっています。
例えば、2022年のアメリカでの研究では、子どもの睡眠時間と社会性、情緒、学習意欲などとの関連を検討しています。
221名の幼稚園児を対象に社会的行動、感情制御や学習意欲等をスコア化し、入園前、入園後1か月、入園後3か月、入園後8か月時点における睡眠時間との関連を調べています。
特に幼稚園入園前の時点で1日10時間以上の睡眠をとることは、社会情緒、学習意欲、学業の各領域で成果が良いことと関連していることが示されました。
著者らは幼稚園入園の5〜6か月前程度の段階で睡眠を整えておくことを勧めています。
さらに、子どもの睡眠不足は覚醒度の低下ばかりでなく、多動性や過敏症、ストレス耐性低下などのリスクが指摘されています。
また、子どもの睡眠障害は発達障害の危険因子としても知られているのです。
睡眠がいかに子どもの成長にとって大切なのか、おわかりいただけたのではないでしょうか。
(参照:Douglas M.Teti,Corey J.Whitesell,Jacqueline A. Mogle,et.al.National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations:methodology and results summary. Pediatrics.2022;150(2):e2021054362)
医学的に正しい、子どもの「適切な睡眠時間」とは?
では、どれくらいの睡眠時間が、医学的に「適切な睡眠時間」といえるのでしょうか。
米国睡眠学会(AASM)と米国国立睡眠財団の子どもの睡眠ガイドラインでは、推奨睡眠時間と一部の人に適切な睡眠時間、さらに推奨されない睡眠時間が定められています。
その中で具体的な幼稚園児の推奨睡眠時間は、以下の通りとなります。
- 生後0~3か月:14~17時間
- 生後4~11か月:12~15時間
- 1~2歳:11~14時間
- 3~5歳:10~13時間
- 6~13歳:9~11時間
こう考えると、大人よりも幼稚園児はずっと多くの睡眠時間が必要であることが分かりますね。
みなさんのお子さんはきちんと睡眠時間を確保されているでしょうか?しかも、睡眠はただ眠るだけではなく、リズムも意識することが重要なのです。
睡眠時間と同じくらい大切な「睡眠のリズム」
そして、睡眠は「いつでも寝れば大丈夫」というわけではありません。
ホルモンにあわせた睡眠リズムを整えてあげることも睡眠時間と同じくらい大切です。
実は人間には「概日リズム」と呼ばれる規則正しい周期的リズムがあり、このリズムに合わせて成長ホルモンやメラトニンなどのホルモンが分泌されています。
例えば成長ホルモンは、寝入ってから1〜2時間後に現れる深い睡眠の時にたくさん分泌され、骨を伸ばす、筋肉を増やす、新陳代謝を盛んにする働きがあります。
またメラトニンは、脳の松果体から分泌されるホルモンで、夜暗くなると分泌が増えます。メラトニンは自然な眠気を感じさせ、体内時計を整える役割があります。
これらのホルモンは午後10時から午前2時くらいまでが最も活性化されるので、それまでに寝ておくのが望ましいですね。
夜間に質の良い睡眠をとることで、日中の体調や集中力、意欲にも良い影響があると考えられています。
さらに、睡眠のリズムは1日だけではあまり意味がありません。
「同じ時間に寝る」または「同じ時間に起きる」といった規則正しい睡眠と覚醒のリズムを整えて良い睡眠をとることは、子どもの健やかな発育と成長、健康保持のためにも欠かせません。
テヘラン大学の研究でも睡眠の質をあげる方法の1つに「同じ起床時間・就寝時間にすること」が取り上げられています。
海外や日本で問題になっている子どもの睡眠の現状
しかし、これほど大切な睡眠なのにも関わらず、睡眠不足に陥っている子どもは意外と多い。
実際、欧米の疫学調査によると、4人に1人の子どもが寝不足や起床困難などの日常的な睡眠障害や日中過眠症、睡眠時無呼吸症候群といった問題を抱えています。
また、日本小児保健協会が行った幼児期の睡眠習慣に関する調査によると、日本の子どもたちの平均の総睡眠時間は「適切な睡眠時間」よりも短く、未就学児を対象とした調査では1歳で9.6時間、3歳で9.8時間となっています。
さらに、1歳6か月児、2歳児、3歳児、4歳児、5~6歳児のすべてにおいて22時以降に就寝する割合が増加しており、子どもの生活リズムが年々夜型傾向にあることが明らかになりました。
最近では夜型化に少し歯止めがかかりつつありますが、遅寝遅起きの子どもが数多く見られているのです。
厚生労働省が行っている「21世紀出世児縦断調査」では、2001年に出生した4万人以上の子どもの睡眠習慣について追跡調査し、母親が働いている家庭では母親の労働時間が長いほど22時以降に就床する子どもの割合が多いことがわかっています。
生活するために仕事も大切ですが、子どもの健康も大切です。
上手くバランスをとりながら子どもの睡眠にも気を配ってあげたいですね。
(参照:厚生労働省ホームページ「子どもの睡眠」)(2023.03.29取得)
(参照:Douglas M.Teti,Corey J.Whitesell,Jacqueline A. Mogle,et.al.National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations:methodology and results summary.Pediatrics.2022;150(2):e2021054362)
幼稚園児の睡眠についてのまとめ
意外と幼稚園児の睡眠は長くとる必要がありますよね。
親のペースでは子どもは睡眠不足になってしまいます。
幼稚園児の睡眠時間と健康や学力には関連があることがわかっていますので、子どもたちが十分な睡眠をとれるように、生活のリズムや環境を整えてあげましょう。
もちろん親の就業時間が不規則な場合など、調整が難しい問題もありますよね。
それぞれのライフスタイルにあわせて、子どもの睡眠にも少し気にかけてあげてくださいね。