幹細胞移植によりエイズウイルス(HIV)感染が完治したとする研究論文が20日、学術誌ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)に発表されました。HIV感染が完治したのは「デュッセルドルフ(Duesseldorf)の患者」と呼ばれる男性(53)で、幹細胞移植による完治は今回で3例目です。
男性は2008年にHIV感染が判明し、その3年後に骨髄性白血病と診断されています。2013年に、CCR5遺伝子にまれな変異がある女性ドナーが提供した幹細胞を使った骨髄移植を受けました。
2018年にはHIVの抗レトロウイルス療法を停止し、その4年後には検査でHIVが検出されなくなりました。このニュースを見た人たちは、「最近の医学の進歩には目を見張るものがある」「技術発展として素晴らしい」「今回の幹細胞移植による完治に関する研究論文の発表は非常に重要」など、称賛のコメントを寄せています。
エイズウイルス(HIV)とは?2019年には2例目が報告
HIVとは、「ヒト免疫不全ウイルス (Human Immunodeficiency Virus)」の頭文字を取ったウイルスのことで、病名ではありません。HIVに感染した人が免疫力の低下などで、23の合併症のいずれかが発症した状態をエイズ(AIDS)と呼びます。
HIVの感染源となるのは主に精液・膣分泌液・血液・母乳で、多くの感染経路は性行為による感染、血液を介した感染・母子感染だとされています。HIVが感染してもすぐにエイズを発症するわけではなく、10年ほど潜伏したあと、免疫力の低下とともに、さまざまな合併症を引き起こします。
現在では治療薬が進歩しているため、HIVの増殖を抑えることが可能です。ただし、HIVを完全に取り除くことは難しいとされていました。
今回の幹細胞移植によるHIV感染の完治は3例目であり、2例目は2019年に発表されています。ロンドン在住の男性が2003年にHIV陽性となり、2012年に進行期のホジキンリンパ腫と診断されました。
男性はホジキンリンパ腫に有効な化学療法に加え、2016年にHIV耐性のある提供者の幹細胞を移植したところ、18ヶ月にわたって腫瘍が縮小し、HIVは減少し続けたとのことです。男性はもはやHIV治療薬を使用しておらず、「HIVに打ち勝った」として称賛の声があがりました。