
京都大学高等研究院の斎藤通紀教授らは、ヒトのiPS細胞から卵子の元となる「卵原細胞」を大量に作り出す画期的な方法を開発しました。これまでも同グループは、iPS細胞から生殖細胞を経て卵原細胞を作ることに成功していましたが、細胞数が少ないという課題を抱えていました。
しかし、今回「BMP」と呼ばれるタンパク質を培養に加えることで、4ヶ月ほどで卵原細胞を元の細胞の約100億倍にまで増やすことに成功。同様の方法で、精子の元となる細胞も大量に作れることがわかりました。
斎藤通紀教授は、「精子や卵子の研究が大きく前進し、将来的に不妊症治療など医療への応用を目指したい」と述べています。iPS細胞から生殖細胞を作る技術が実用化されれば、不妊に悩むカップルに新たな希望が生まれるかもしれません。研究のさらなる進展が期待されます。
ネット上では、「少子化が問題になっている今の社会に必要な技術」「個人的には早く実用化した方が良いと思う」「生殖にまで科学が手を出したらいけないとずっと思ってる」など、賛否の意見が寄せられています。
iPS細胞とは?さまざまな細胞に変化できる万能細胞
iPS細胞は、体細胞に遺伝子を導入することで、さまざまな細胞に変化できる万能細胞です。再生医療や新薬開発に応用されています。京都大学の山中伸弥教授が2006年にマウスで、2007年にヒトでのiPS細胞の作製に成功し、2012年にノーベル生理学医学賞を受賞しました。
斎藤通紀教授らは、山中伸弥教授の研究成果を基に、独自の研究を10数年以上積み重ねてきました。2012年にはマウスのiPS細胞から卵子を作り、体外受精で子どもを誕生させる世界初の快挙を成し遂げています。
ヒトのiPS細胞からは2015年に始原生殖細胞の作製に、2018年には卵原細胞の作製に成功し、米科学誌「サイエンス」に発表して注目を浴びました。しかし、この時点では細胞数が少ないという課題がありました。
斎藤通紀教授は発生生物学と細胞生物学が専門で、京都大学大学院医学研究科で博士号を取得後、2009年に同研究科の教授に就任しました。2011年から2018年までは科学技術振興機構(JST)の研究総括を務めるなど、第一線で活躍し続けています。
今回、培養方法を工夫することで、卵原細胞を大量に作ることに成功。将来的には不妊治療など医療への応用が期待されます。