子どものカフェイン中毒 コップ1杯のお茶でもリスクあり

「大人は「モーニングコーヒーでうつ病リスクが低下」 子どもはお茶1杯でもカフェイン中毒の可能性」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

カフェインは現代社会のエネルギー源ともいえる存在です。

やる気が出ない時。
もうひと踏ん張りしたい時。
眠気を抑えたい時。

誰しも一度はカフェインに頼ったことはあるでしょう。
最新の論文では、「モーニングコーヒーでうつ病リスクが低下」するといった報告もあるほどです。

このような傾向は、子どもにとっても同じです。
たくさんの習い事、たくさんのテスト、そして受験。
多くの「頑張らないといけないシーン」に合わせて、コーヒーではなくても、エナジードリンクやタブレット、カフェイン入りのお茶などからカフェインをとっています。

筆者の専門である小児科領域では、カフェイン製剤を未熟時無呼吸発作に使用します。
また、わが国の研究では「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」の研究班が、コーヒーと大腸がんの関連を検討し、女性において1日3杯以上のコーヒー摂取が結腸がんリスクを低下させる可能性を報告しています。まさにカフェインは我々の身近にあるのです。

そして、ここ最近問題になっているのが「子どものカフェイン中毒」です。
実際、救急搬送されている例も少なくありません。
中には死亡された方もいるほどなのです。

救急外来では、カフェインを摂ることで集中力を高めようとしてカフェイン中毒となり、活性炭の内服や人工透析を必要とした子どもが救急搬送されることがあります。

では、カフェインはどれくらいまでなら「安全」といえるのか。
カフェイン中毒になったらどんな症状が出てくるのか。

カフェインに頼らなければいけない現代社会だからこそ知ってほしい知識として、
「子どものカフェイン中毒」について一緒に考えていきましょう。

カフェインとは?

そもそもカフェインとは何かご存じですか?

カフェインとは、一般的にコーヒーや紅茶、緑茶などの飲料に含まれている天然の化合物のこと。
神経を鎮静させる作用を持つアデノシンという物質と化学構造が似ており、アデノシンの代わりに、カフェインがアデノシン受容体に結合します。

結合すると、本来アデノシンとアデノシン受容体がくっついて、神経の興奮が抑えられるのですが、代わりにカフェインが結合している分、神経の興奮を抑えることができません。
こうして、中枢神経系を刺激し、覚醒や疲労回復効果をもたらす働きがでてくるのです。しかし、このカフェインの覚醒効果には耐性ができるため、場合によっては1週間あけないと効果が落ちることがわかっています。

またカフェインは、エナジードリンクやチョコレート、コーラなどの飲食品にも含まれていますね。
ですから、子どもでもカフェインをとる機会はたくさんあるのです。

もちろん、みなさんの体感している通り、カフェインを「適量」摂取する分には、集中力向上や運動能力の向上といったプラスの効果があります。

しかし、逆にカフェインを過剰摂取すると、体に悪影響を及ぼすこともあります。
これが「カフェイン中毒」です。

特に子どもの場合、成長過程にあるため、カフェインの摂取には注意が必要です。
子どもの体は大人に比べてカフェインの分解能力が低く、効果も長く持続しやすいため、過剰摂取による健康リスクが高まってきます。

カフェイン中毒による症状は?

では、カフェイン中毒による症状にはどんなものがあるでしょう。
例えば、次のようなものがあげられます。

  • 不安感やイライラ: カフェインが神経伝達物質のバランスを崩すことで、子どもの感情が不安定になり、ストレスやイライラを感じやすくなります。
  • 頭痛: カフェインは血管を収縮させる効果があり、過剰摂取により血流が悪化し、頭痛が引き起こされることがあります。
  • 動悸や心拍数の増加: カフェインは心拍数を上昇させ、血圧を上げる働きがあるため、過剰摂取により動悸や心拍数の増加が生じます。
  • 胃痛や吐き気: カフェインは胃酸の分泌を促進するため、過剰摂取によって胃痛や消化不良が引き起こされ、吐き気を感じることがあります。
  • 睡眠障害や疲労: カフェインには覚醒効果がありますが、過剰摂取によって睡眠の質が低下し、疲労が蓄積しやすくなります。
  • 震えや痙攣: カフェインが神経系に作用することで、過剰摂取時に筋肉の緊張や不随意の震え、場合によっては痙攣が引き起こされることがあります。

なぜこのような症状がでてくるのでしょう。

カフェインが、カフェインは、アデノシンという神経伝達物質の受容体に結合し、アデノシンの働きを阻害することは説明しました。
神経はいろんなところに張り巡らされており、カフェインが大きく作用するのは「交感神経」です。

交感神経とは、人間が戦ったり、逃げたりするときに活性化される神経のこと。
みなさんもテストや「やるべき時」に興奮して汗がでたり、心臓がドキドキしたりしたことはありますよね?

それと似た現象がカフェイン摂取でも起こります。
適度に摂取する分には「適度な緊張」が保たれ、脳も活性化するのですが、過剰摂取になると「わけもわからない焦り」につながったり、「ふるえ・動悸」につながったりするのです。

繰り返しますが、子どもの場合は大人よりもカフェインへの感受性が高いため、摂取量に特に気をつけなければなりません。

子どものカフェイン摂取の上限量は?

では、子どもはどれくらいまでカフェインを摂取してよいものなのでしょうか?

明確な基準はありませんが、欧州の食品安全機関によると「長期的・習慣的なカフェイン摂取に関する研究が少なく、不確実性が残るものの、大人と同様体重1㎏あたり3mgであれば悪影響が見られない」としており、農林水産省でも準拠する形で提言しています。

例えば、カナダでは「18歳までの子どもや青少年は、1日当たり体重1 kg当たり2.5 mg」と警告しています。

体重1日のカフェイン上限量
10㎏25-30㎎
20kg50-60mg
30kg75-90mg
40kg100-120mg

すなわち、上記の表のようになります。
ここで注意してほしいのは、食品に含まれるカフェイン量です。
例えば、カフェイン量が多い飲み物の一覧とカフェイン量を見てみると次の通りとなります。(日本食品標準成分表:文部科学省)

  • エナジードリンク:製品1本あたり36-150mg
  • コーヒー(浸出液):100mlあたり60mg
  • インスタントコーヒー:2g(小さじで半分)使用すると1杯80mg
  • 玉露(浸出液): 100mlあたり160mg
  • せん茶(浸出液): 100mlあたり20mg
  • ウーロン茶(浸出液): 100mlあたり20mg
  • 紅茶(浸出液): 100mlあたり30mg

つまり、体重30㎏の子どもですと、緑茶やウーロン茶を500mlペットボトル分飲むだけで、「カフェイン中毒」になってしまいます。
エナジードリンクも製品の種類によっては、1本飲むと、必ず子どもがカフェイン中毒になってしまう位の量に達するということになります。
実際には一気にカフェインが体内に吸収されるわけではありませんので、簡単にはカフェイン中毒になりませんが、このような情報があると気になってしまいますね。

また、体重10㎏くらいの1歳の子どもの場合、1日カフェイン上限量が25-30mgですから、お茶類は100mlでもカフェイン中毒になる危険性があると警告されているのですね。
参考までに妊婦の場合、英国食品基準庁(FSA)では、2008年に妊婦がカフェインを取り過ぎることにより、出生時に低体重となり、将来の健康リスクが高くなる可能性があるとして、妊娠した女性に対して、1日当たりのカフェイン摂取量を、WHOよりも厳しい200mg(コーヒーをマグカップで2杯程度)に制限するよう求めています。

非常に恐ろしいことだと思いませんか?

まとめ ~子どもをカフェインから守るために~

子どものカフェイン中毒について解説していきました。
カフェイン中毒が、意外と身近なところに潜んでいることを実感していただけたと思います。

子どもをカフェイン中毒から守るために親ができることは、まず飲み物や食べ物に入っているカフェイン量を「知ること」です。
高カロリーで多量のカフェインが含まれるエナジードリンクを大量に飲むと、中学生の注意欠如多動症(ADHD)のリスクが66%上昇することが報告されています。
もし、お子さんがソワソワしやすかったり、イライラしやすかったりするとすれば、それはカフェイン中毒かもしれません。

もちろん、カフェインは適切に使えば脳にもよい影響を与えます。
ただし、子どもは特にカフェインに対して感受性が高くなっています。

カフェインと上手に付き合って、飲みすぎないように注意しましょう。

参考文献:
1.Jiahui Yin,Yu Ding,Feikang Xu,et al.Does the timing of intake matter? Association between caffeine intake and depression: Evidence from the National Health and Nutrition Examination Survey. J Affect Disord. 2023 Nov 1:340:362-368
2.Deborah L. Schwartz, Kathryn Gilstad-Hayden,Amy Carroll-Scott,et al. Energy Drinks and Youth Self-Reported Hyperactivity/Inattention Symptoms:Acad Pediatr. 2015 May-Jun;15(3):297-304
3. 農林水産省「カフェインの過剰摂取について」
4.Scientific Opinion on the safety of caffeine
5.厚生労働省. 食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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