刑務所のリアルに迫る「東海北陸・みよし矯正展」とは?地方発・社会復帰を支える刑務所イベントを紹介
東海北陸・みよし矯正展とは
「東海北陸・みよし矯正展」は年に一度、名古屋矯正管区および名古屋刑務所主催により開催されるイベントで、今回で33回目を迎えます。
このイベントは、刑務所での作業によって生産された品質の高い製品を手頃な価格で販売する一方で、地域住民に矯正行政の取り組みを紹介し、理解を促進することを目的としています。
東海北陸地方における矯正展としては最大規模を誇る「東海北陸・みよし矯正展」は、さまざまな催し物により、開催するたびに大盛況となっている一大イベントです。
東海北陸・みよし矯正展の目的
「東海北陸・みよし矯正展」は、法務省が主唱する「社会を明るくする運動」の一役を担っています。収容されている受刑者や、少年の改善更生・社会復帰のため、矯正行政が果たしている役割や日々の改善指導、教育活動などを紹介しています。出所者などを地域で受け入れていただくため、矯正行政に理解を深めてもらったり、出所者等の再犯防止につなげることを目的としています。
東海北陸・みよし矯正展はどんな内容?
第33回東海北陸・みよし矯正展は、名古屋刑務所で開催されました。
<東海北陸・みよし矯正展の内容>
- スペシャルゲスト(浅尾美和さん、玉田圭司さん、加藤里奈さん)トークショー
- 刑務所作業製品の展示・即売
- 模擬居室の展示(1/1スケール)
- 刑務作業の実演・体験コーナー
- 施設見学
- キッズ刑務官写真撮影
- 刑務所パン販売コーナー
- 矯正広報パネル
- 受刑者、少年院生の教育作品展示
- 職員採用広報パネルの展示、ほか
- ステージイベント
アイドルグループ OS☆U、OS☆K、O2のライブ
豊田大谷高校ダンス部やチアグランパスによるダンスパフォーマンス
近隣小中学校による演奏等、さまざまな演目が目白押し - はしご車の乗車体験(21日午前)
- ミニショベルカー操作体験
- スタンプラリー
多種多様なイベントや出展が揃い、名古屋刑務所の広大な敷地を生かしたプログラムが組まれており、一日を通じて楽しむことができます。
では、第33回「東海北陸・みよし矯正展」の詳細について紹介します。
2023年(令和5年)東海北陸・みよし矯正展の様子
新型コロナウイルスの影響を受けて、4年ぶりに2日間にわたり開催された東海北陸・みよし矯正展(昨年は1日だけの開催でした)。名古屋刑務所の入口前には、開場前から来場者がずらりと行列をつくっていました。
2023年(令和5年度)東海北陸・みよし矯正展の来場者数は、2日間でなんと1万4千人を超えました。久しぶりの開催を心待ちにしていた多くの人々が来場しました。
開場と同時に、横須賀刑務支所製のブルースティックのミニサイズが先着150名の来場者に粗品として提供されました。最も早く到着した来場者の中には、30分以上前から並んで待つ熱心な姿が見られ、開場後は急ぎ足で会場内へ進んでいきました。
「東海北陸・みよし矯正展」の開幕は、名古屋矯正管区長、名古屋刑務所長、愛知県みよし市長をはじめ、スペシャルゲストの浅尾美和さん、玉田圭司さん、加藤里奈さんによるテープカットによって飾られました。このセレモニーはメインステージで行われ、集まった多くの来場者の拍手に包まれました。
刑務所の中で出されているパンやカレーが食べられる?!
テープカットが行われたと同時に、人々が集まり始めたのは刑務所で作られるパンの販売コーナーです。開場からわずか30分で、早くも行列ができるほどの盛況ぶりでした。
刑務所内で出されているパンという珍しさや、1つ100円という手頃な価格から、毎回このパンを目的に並ばれる方もいるようです。行列があまりに長くなったため、最後尾を示す看板が出されていました。1日の販売は1,000個に限定され、1人1個の購入制限があるにもかかわらず、その人気は絶大で、両日とも瞬く間に完売しました。
名古屋刑務所のレシピをもとに再現された2種類のカレーが、キッチンカーで提供されていました。「監獄カレー」という印象的な名前がつけられたこのカレーは、午後になると完売するほどの人気を博していました。
安くて良いモノが勢揃い!刑務所作業製品の魅力
来場者からは「価格が手頃で品質が良い」という声が多く、刑務所作業製品が注目を集めています。中には「家族が以前から製品を愛用していたので、矯正展を訪れてみた」という方もおり、刑務所作業製品を通して世代を超えたつながりをつくっています。
こちらの刑務所作業製品は『推しだな』というもので、推しの著名人やアイドルに関するグッズを保管したり、観賞用の棚として使うもの。このアイデアは、地元高校生を対象に「どのような製品があれば喜ぶか」についてのアンケートから着想を得て開発されました。刑務所側も新製品の開発に積極的に取り組んでいる様子が伺えます。
メイン会場の中央には、神輿が印象的に展示されていました。この神輿は刑務所で実際に販売もされており、価格は95万円(税込)です。見るからに高度な技術を要するものであり、クオリティの高さがうかがえます。
キャッシュレス決済に対応しているレジもありました。時代の流れに合わせ、現金のみならずキャッシュレス決済も取り入れることで、より多くの来場者に手軽に購入してもらいたいという販売側の配慮が感じられます。
自分を知ることができる性格検査テスト
性格検査コーナーでは、60の質問に「はい/いいえ」で回答していくことで自身の性格の特徴を知ることができます。常に来場者で賑わっていて、互いの結果を見せ合って楽しんでいる様子が見受けられました。
大人も子供も楽しめる体験コーナー
体験コーナーは各所で設けられており、特に子供を連れた家族にとって魅力的なスポットとなっています。お金がかかるものもありますが大半は500円以下で体験することができ、ものづくりの体験に関しては作ったものを持ち帰れるため、記憶に残る体験となるでしょう。
子供だけでなく、大人も一緒に体験している様子が印象的で、笑顔と真剣さが溢れている空間でした。
お子さんが刑務官や自衛隊の制服を着て、撮影できるスペースも設けられていました。滅多に着ることのできない服装なので、子どもたちは大いに楽しんでおり、多くの家族が記念写真を撮っていました。
スペシャルゲストトークショー
今回の「東海北陸・みよし矯正展」の目玉コーナーでもあるスペシャルゲストによるトークショー。
元ビーチバレー選手の浅尾美和さん、名古屋グランパスエイト・元サッカー選手の玉田圭司さん、NHK名古屋局のキャスター・ディレクターの加藤里奈さんをゲストに迎えました。
刑務所作業製品をご覧になられて、その品質の高さに驚きがあったり、バリエーションの豊富さに気になるものがたくさんあったようです。
トークショーでは、失敗した経験から意識していることや、新しい挑戦での気付き、座右の銘や大切にしていることなどのテーマを中心に会話が繰り広げられました。
加藤さんの言葉は、失敗を経験することの価値を力強く語るものでした。「自分の弱さを認識することで強くなれる」という考えを示しながら、「失敗を恐れずに挑戦を続けることの重要性」を強調しました。
座右の銘に関する話題では「何事にも全力で、どんなときも楽しむ」というというポジティブな姿勢を共有した浅尾さんと玉田さんに、加藤さんも笑顔で同調していました。
「アスリートがずっと勝ち続けるのは難しい。どこかで負けることもあるけど、笑顔で楽しむことで良い結果につながるし、周りにも楽しさが伝わる」と語る浅尾さん。
失敗からも目を背けることなく、楽しむ姿勢を大切にしているそうです。
「挑戦し続けるからこそ結果をつかめるし、さまざまな気づきがある」という意欲に満ちた言葉もありました。
また浅尾さんは、現役時代の「全力投球」の精神を持ちつつも、結婚や育児と、仕事を両立する中で、「なんでも全力で取り組むことの限界を知り、誰かに頼ることの重要性に気づき、自分のできる範囲での全力を大切にしている」という独自の視点を語りました。
「失敗は成長の糧であり、とても価値がある。失敗によって初めて気づくことがあるので、恐れずチャレンジする姿勢が大切です。子どもが失敗したとき、親は怒らないでください」と玉田さんは言います。失敗を肯定的に捉える彼の考え方と、子どもを持つ親へのアドバイスを兼ねたメッセージです。
「変なプライドは捨て、ありのままの自分でいることが重要です。現役時代、話すことは得意ではありませんでしたが、現在は指導者を目指すにあたり、伝える力を高めるために挑戦しています」と、今もチャレンジし続けている玉田さんの経験をシェアしました。
「いつも“楽しむ”ことを大切にしています。楽しみを見つけながら取り組むことで、選手として、また人間としても魅力が増していきます」と語る玉田さん。彼の座右の銘についての話は、常にポジティブな姿勢でいることの根源を垣間見ることができました。
「玉田さんと浅尾さんは過去に共演がありましたか?」という話題では、共演していたことを覚えていた玉田さんと、うっかり記憶の彼方へいってしまっていた浅尾さんのお茶目なシーンで、会場に笑いが起こりました。
トークショーに出演したゲストの方々へ、名古屋刑務所長から感謝状が授与されました。矯正展やトークショーを通じて、刑務所の矯正行政への理解を深めていただく機会となればとの願いが込められています。
トークショーを終えて、3名のゲストに矯正展の感想を伺いました。3名とも矯正展へは初めて来られたとのことでした。
加藤さんは、製品の素晴らしさが印象深かったようです。
「矯正展は初めてでしたが、とても盛り上がっていて地域の方が楽しみにされているんだと感じました。手作業で仕上げられた製品の完成度の高さには、特に驚かされました」
イベントに招かれた自身の役割を意識しつつ、熱心に語られた浅尾さんも、イベントを楽しんでいらっしゃいました。
「すごく楽しかったし、伝えたいことをしっかりと伝えられたと思います。矯正展は初めての参加でしたが、地域の皆さんに愛されるイベントなんだなという印象を受けました。開放的でお祭りのような雰囲気は、刑務所の一般的な閉ざされたイメージとは異なるものでした」
玉田さんは、浅尾さんと加藤さんの会話に圧倒されつつも、状況を楽しんでいたようです。
「刑務所に来るのは初めてだったので緊張はありました。トークショーで浅尾さん、加藤さんの考え方を聞けて共感できましたし、参考にもなり楽しかったです。あと、中日ドラゴンズの話で盛り上がる2人に付いていくのに必死でした(笑)」
地域住民の皆さんで盛り上がるステージイベント
「東海北陸・みよし矯正展」のメインステージでは、歌やダンス、演奏などが行われていました。
愛知県公認アイドルの『OS☆U』『OS☆K』『O2』『チアグランパス』もステージに上がり、ファンを中心に盛り上がっていました。ステージ出演後は、場所を移動してファンとの交流時間も設けられていました。
受刑者の日常である、名古屋刑務所の中が見学できる
今回の「東海北陸・みよし矯正展」では、刑務所内を見学できる施設見学の時間が設けられていました。名古屋刑務所では、1日目の午後(13:00〜15:00)、2日目の午前(9:30〜11:00)と午後(13:00〜14:30)が施設の見学時間でした。
一般の方が刑務所内を見学できる機会は滅多にありません。そのため、施設見学の開始前から長蛇の列をつくっていました。
開門とともに列をなして刑務所内へ入っていく来場者。背後には、刑務所の高い壁がそびえ立っています。どう頑張っても乗り越えられる高さではありません。
古めの入浴場と新しい入浴場の2箇所がありました。週3回、1回あたりの入浴は15分以内で、受刑者が入浴をしています。
シニアサポートセンター工場があり、刑務作業と心身のトレーニングが行える設備が整っています。この工場は、認知症をはじめとする心身の障がいがあるために一般工場での作業が困難な受刑者を対象にしています。
個々の特性に配慮しながら矯正処遇などを実施し、受刑者の更生の意欲を促し、社会復帰のため機能を維持することを目的としています。
刑務官は日々異なる業務や配置でシフトが組まれるのですが、この工場では同じ刑務官と受刑者の構成でシフトが組まれるため、心理的安心を生む効果が期待できます。
受刑者が1ヶ月前まで実際に生活していた居室棟も、施設見学のコースに入っていました。
単独室は、3畳ほどのスペースに水場やトイレなども備わっています。トイレは、上半身だけが見えるような状態となります。
共同部屋は9畳ほどのスペースで、基本的に6人を上限に生活します。共同生活ということで臭いに対する配慮から、こちらのトイレには扉があります。ただし、窓から上半身が見えるようになっています。
名古屋刑務所にはさまざまな工場があり、受刑者は工場で刑務作業に従事します。写真の工場では電気部品の組立を行います。
新しい設備を備え広々とした講堂は、その規模により刑務所内にいることを忘れさせるほどです。この講堂では慰問活動が行われるそうで、名古屋刑務所の収容人数の多さに応じて広くつくられています。慰問活動とは、刑務所や拘置所にいる受刑者のために、部外協力者が公演や歌の行事を行うことです。
刑務所の単独室を再現したブースに入れる!
施設見学でも見ることができた単独室を忠実に再現したブースが、刑務所外のスペースに設置されていました。こちらのブースは実際に中に入って見ることができます。テレビが置いてあることは意外に思われるかもしれません。
名古屋刑務所の再犯防止に関する取り組みについて
名古屋刑務所では矯正広報活動の一環として、広報パネルを展示しています。これらのパネルを通じて、来場者は刑務所内での活動について知ることができます。
名古屋刑務所をはじめとする矯正施設では、再犯防止のための推進計画が進められています。これは、出所者が再び刑務所に戻らないよう支援する取り組みです。再犯の主な原因は「住むところがない」ことと「就職先がない」ことの2つで、これらは一方だけでなく、両方が確保される必要があります。出所者の社会復帰を受け入れるためには、社会全体の理解が必要です。
このような背景から、矯正行政に対する理解を深め、支援を促すために矯正展が開催されています。
刑務所内で受刑者へ指導する作業専門官が語る想い
刑務所の中で、実際に受刑者に作業を指導している作業専門官の方々に話を伺いました。
椅子や机をつくっている、木工担当の作業専門官。
「一からモノをつくることを皆さんに知ってもらい、受刑者が一生懸命作った製品を大事に使っていただきたい。受刑者には、モノづくりの大切さ、楽しさを感じてほしい。社会に出たときにこの経験を役立ててもらいたい」
ノートやメモ帳をつくっている印刷担当の作業専門官。
「受刑者には、製品をつくったときの達成感を味わってほしい。作業専門官としてのやりがいは、受刑者たちが刑務所へ戻ってこないよう手助けできること」
将棋棋士の藤井聡太さんにあやかって、将棋のコマ型のメモ帳を新しく製品開発し、イチオシ商品とのことです。
建築関係の職業訓練で足場を組んだり、ショベルカーなどの指導をしている作業専門官。
「怪我なく事故なく作業に取り組んでもらうことや、現場でのチームワークを持てるように意識して訓練しています。訓練生がゼロから学習、訓練をしてできるようになった姿を見るとやはり嬉しいですね。1人でも多く更生を果たし、社会で活躍してもらえたらと思います」
東海北陸・みよし矯正展を通じて地域の方々へ伝えたいこと
「東海北陸・みよし矯正展」を通じて伝えたいことについて、名古屋刑務所の首席矯正処遇官の渡邊さんに話を伺いました。
「刑務所作業製品は、時代の変化と共に進化しています。刑務所も工夫や試行錯誤を重ねており、世の中の需要に合わせて作ることで、受刑者にとってもやりがいにつながる大事な要素です。
原発やお墓、刑務所が世の中に必要なことはわかるけど、自分の街にはいらないという声が一部あると思います。しかし必要なものだからこそ、職務を全うし、社会のみなさまの理解につなげていきたいと思います。
そして、刑務所は社会の縮図とも言われます。世の中で高齢化社会と言われていることなど刑務所の中でも同様です。こういったことも皆さんに知っていただきながら、今後の拘禁刑施行に向けて新たな時代の刑務作業を展開できるように日々努めています」
名古屋刑務所について
名古屋刑務所は、法務省矯正局の名古屋矯正管区に属する刑務所です。名古屋矯正管区内で最大の規模を持つ基幹施設。
日本人だけでなく外国人も含め、収容されている男子刑務所です。
名古屋矯正管区は、法務省矯正局の地方支分部局として、管轄地域(富山県、石川県、福井県、岐阜県、愛知県、三重県)内にある矯正施設(刑務所、拘置所、少年院、少年鑑別所)の管理運営を図るための指導監督調整等に当たっています。
名古屋刑務所がある名古屋矯正管区について
https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei08_00106
名古屋刑務所の基本情報
最寄駅は、名鉄豊田線の三好ヶ丘駅。駅から徒歩20分もしくはバスで10分ほどの距離です。「名古屋」と付いていますが、名古屋駅からは1時間少しかかる場所にあります。
所在地
〒470-0208 愛知県みよし市ひばりヶ丘1-1
交通手段
●名鉄豊田線「三好ヶ丘駅」下車徒歩20分
TEL 0561(36)2251
FAX 0561(36)2256
刑務所作業製品の展示場も併設されています。
〇営業時間
9時~12時15分、13時~15時45分(土日祝日を除く)
〇展示・販売製品
名古屋刑務所で製作された木工製品、洋裁製品、印刷製品、金属製品、窯業製品をはじめ、全国の刑務所から集められた様々な刑務所作業製品が展示されています。
名古屋刑務所
https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00058.html
【告知】2023年度(令和5年度)第63回全国矯正展について
2023年の全国矯正展は大幅な見直しを行い、会場を昭和47年より使用している科学技術館から東京国際フォーラムに変更するとともに、開催時期を例年の6月頃から12月に移行したうえで実施予定です。
【開催日時】
令和5年(2023年)12月9日(土)10:00〜16:30
令和5年(2023年)12月10日(日)9:30〜15:00
【開催場所】
東京国際フォーラム(ホールE)
東京都千代田区丸の内三丁目5番1号
こちらも東海北陸・みよし矯正展展同様、矯正行政の取り組みを一般市民に伝える貴重なイベントです。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
第63回全国矯正展についての詳細はこちら↓
https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00033.html