受刑者の日常が丸ごとわかる「青森矯正展」とは?刑務所のカレー・ムショ飯(むしょめし)も体験
<目次>
青森矯正展とは?
『青森矯正展』は年に一度、7月の第2日曜日に開催されるイベントです。
青森刑務所と、青森少年鑑別所が主催で、公共財団法人 矯正協会の刑務作業協力事業部が共催しています。
刑務作業量の確保を目的とした、刑務作業協力事業部が発足してから2023年で40周年を迎えます。
青森矯正展はこの事業部が発足したあとから始まったとのことで、少なくとも30年以上は継続して開催されています。
青森矯正展の目的
青森矯正展は、法務省が主唱する「社会を明るくする運動」の一役を担っているイベントです。
収容されている受刑者・少年の改善更生・社会復帰のため、矯正行政が果たしている役割や日々の教育活動・改善指導などを紹介。
出所者等を地域で受け入れていたただくため、矯正行政に理解を深めてもらったり、出所者等の再犯防止に繋げることを目的としています。
青森矯正展はどんな内容?
青森刑務所で開催されるイベントとして、青森矯正展ではどんなことが行われているのか?まったく想像がつかない人もいると思います。
刑務所は普通に生活しているとほとんど関わりがない場所ですが、だからこそ地域の方々に興味や理解を深めていただけるように青森矯正展を開催しています。
<青森矯正展の内容>
- 矯正行政等の紹介(青森刑務所等)
- 性格診断検査(青森少年鑑別所)
- 保護行政の紹介(盛岡保護観察所)
- 再犯防止推進計画の取組紹介(青森刑務所等)
- 避難所及び防災機器の紹介(青森刑務所等)
- 所内見学(青森刑務所)
- 刑務作業体験(青森刑務所)
- バザー品等の販売(青森地区更生保護女性の会等)
- 刑務作業製品の販売(青森刑務所等)
- ステージイベント等(りんご娘等)
- イベント(移動動物園等)
- 飲食販売(各飲食店)
※令和5年度(2023年度)の青森矯正展の情報より抜粋。
刑務所というと堅苦しい印象を持っている方もいるかもしれませんが、青森の地域の方々に配布されていた青森矯正展のチラシはポップなイメージです。
地域の方がすごく身近に感じ、誰もが楽しめるイベントとして青森矯正展が開かれています。
令和5年度(2023年)青森矯正展の様子
2023年7月9日(土)に開催された『青森矯正展』
新型コロナウイルスの影響もあって4年ぶりの開催。「楽しみに待ってました!」と、開場前から行列をつくる来場者の方々で賑わっていました。
令和5年度(2023年)の青森矯正展の来場者は、なんと3,933人だったそうです。
以前までの青森矯正展の平均来場者数は2,000人程度だったため、倍近くの方が来場。
青森刑務所はじめ、矯正に関する取り組みへの理解が深まったことと思います。
青森市観光イメージキャラクター「ねぶたん」「ハネトン」「あぷたん」が、たくさんの来場者を歓迎してくれました。
文化祭のような盛り上がりを見せるステージ
開場してさっそく人だかりをつくっていたのはステージ前。地元の子供たちによるマーチングバンドで、親御さんが我が子の活躍を写真に収めようとステージを囲んでいました。
青森観光大使になり、エンタメを盛り上げるFUMIYAさんによるライブパフォーマンスも盛り上がりを見せていました。
八戸えんぶり研賛会による『八戸えんぶり』も盛大に行われました。
『えんぶり』とは、初春の神事として青森県八戸市一円を中心とする東北各地で広く行われる予祝芸能の一種です。
『AOMORIバルーン集団ねじりんご』のSAWAさんによるバルーンアートでは、子供連れの家族がバルーンアートを楽しそうに観覧していました。
ショーが終わるとSAWAさんから子供たち一人ひとりにバルーンが配られ、子供たちも笑顔になって楽しく帰っていく姿が見られました。
この日、一番注目を集めたのは何といっても青森出身のアイドル『りんご娘』のライブ。
『りんご娘』のメンバーが客席の間近で歌っているステージは、夏の暑さも相まって盛り上がり最高潮を見せました。
ステージで演じた方々は、青森矯正展を共に盛り上げたことについて、青森刑務所の三浦所長から感謝状が手渡しされました。
青森出身のアイドル『りんご娘』もステージを盛り上げた演者の一組として、所長から感謝状をもらっています。
地元のお店を中心にした飲食店などの出店ブース
飲食店等のブースには、14店舗が出店していました。
目を引く飲食店は、「務所飯」(ムショ飯)と銘打った『刑務所のカレー』。地元の飲食店『番屋』さんが、青森刑務所のレシピを元に、刑務所内で出されているカレーを再現したとのこと。
刑務所内で出されるカレーにカツまで乗っているのか?!という驚きでしたが、管理栄養士による栄養やカロリーの計算が緻密にされているそうです。
そしてカツの下には、白米が7割、麦飯3割という配分になっていました。
「安くて良いもの」として定評がある刑務作業製品
刑務所で製作されている製品は、安くて良いものとして有名です。
来場者の方々に「今回は何を目的に来られましたか?」と伺ったところ、「刑務作業製品を買い求めにきた」という方が非常に多かったです。
その中でも人気な製品がこちらの石けん。
この石けんだけを求めに来場したという方もいました。
こちらは横浜刑務所横須賀刑務支所の受刑者が製造・包装・出荷まで、手作業で行っている洗濯石けんです。
横須賀刑務支所の石けん製造工場は、全国の刑事施設で唯一、品質マネジメントの国際規格「ISO9001」の認証を取得しています。
認証があることで、刑務作業および刑務所作業製品に対するイメージアップや社会的信頼を確保し、さらに購入者や寄附者の方に喜ばれる高品質な石けん製品を提供します。
なお、この石けんはCAPICという刑務所作業製品を取り扱ったECサイトで購入することができます。
CAPICでは、売上げの一部を犯罪被害者支援団体の活動に助成しているそうです。
また、青森刑務所に限らず、刑務所に併設される形で刑務所作業製品を販売している施設もあります。
この施設に行けば、矯正展の日以外でも刑務所作業製品を直接購入することができます。
青森刑務所内の工場で、受刑者に対して津軽漆塗りの作業を実際に教えている『福士工房』の職人の方も出店されていました。
こちらの津軽漆塗り作品は、福士さんが製作されたもので完成までに2-3ヶ月ほどかかるのだそうです。
こちらの津軽漆塗りのギターは半年ほどかかったとのこと。
ふれあい動物園や警察・消防などのイベントブースで体験
刑務所とは少し毛色が異なるようなふれあい動物園『Ricky』があり、子供連れの家族で賑わっていました。
「子供や皆さんに楽しんで欲しい」という想いで青森矯正展に初めて出店したとのことです。
ネイルをすることができたり、アロマ作りのワークショップなどもありました。
このブースは女性や子供を中心に賑わっていました。
棒パン作りをする体験ができたり、松のコースターを米ぬかの油でコーティングする作業体験ができる場所があり、おばあちゃんと孫で体験している世代を超えて青森矯正展を楽しむ姿も見られました。
警察や消防、自衛隊など普段なかなか触れられない体験ゾーンもありました。実際にパトカーや自衛隊の車に乗ることができたり、警察官や消防隊の服を着て記念撮影をする姿が多く見られました。
貴重な体験を通して子供の笑顔を見られる親御さんも楽しそうに過ごしていました。
りんご娘の皆さんも特別機動警備隊のブースへ訪れて矯正活動について理解を深めていました。
刑務所内の見学(施設内の撮影NG)
年に一度の青森矯正展の日だけ刑務所内が一般公開されます。
※見学中の刑務所内は撮影NG
午前・午後の部で受付があり、指定の時間に刑務官の方が一般の方を連れて刑務所内に入り、施設を説明しながら案内してくれます。所要時間はおよそ30分ほど。
施設で見て回った箇所は以下の通り。
- 受刑者が実際に居住している居住棟の入り口前まで(居住棟の中は見れない)
- 受刑者が病気などになった際の医療棟の入り口前まで(医療棟の中は見れない)
- 受刑者が刑務作業にて働いている工場(木工作業、洋裁作業など)
- 受刑者が食事をする食堂
- 受刑者が洗濯を行う洗濯場
- 受刑者が入浴する浴場
- 受刑者が運動するためのグラウンド
- イベントなどで使われる講堂
単独房を再現した実寸大の模型、食事、刑務所内で販売されている文具やシャツなども展示されていました。
講堂には今までイベントで来た団体や著名人のサイン色紙も並んでいました。
驚いたことに、刑務官は武器を一切持たずに受刑者と関わるそうです。
工場ではカッターやノコギリなど凶器になり得るものを刑務作業上、受刑者に使わせるのですが(もちろん全員にという訳ではなく、問題ないと判断した人に限る)、刑務官が丸腰な理由は信頼関係を紡ぐため。工場の担当刑務官は、受刑者から「オヤジ」と呼ばれて慕われるような存在だそうです。
そのため、受刑者がもし実際に暴れたとしても受刑者同士で止めに入るような文化が形成されているとのこと。
そしてもう一つ驚いたことが、基本的には被収容者の生活する部屋にエアコンは設置されていません。
青森の冬は寒いと思うのですが、服を着込んで寒さをしのぐそうです。
受刑者だけでなく、刑務官はエアコンのない場所で勤務する時が多いので、刑務官の方も大変な仕事だと痛感しました。
青森刑務所はじめ矯正に関する取り組みについて
刑務所内の見学以外にも刑務所での取り組みについて、パネルで展示されているコーナーがあります。
ここでは青森刑務所はじめ、各矯正機関で実際に取り組まれている矯正プログラムや刑務所内でのライフサイクル、食生活、刑務作業内容などを学ぶことができます。
受刑者のライフサイクルとして、平日は6時50分に起床して朝食。7時50分〜16時30分で休憩や昼食をはさみながら刑務作業を全うし、夕食を食べたら21時には就寝という規則正しい生活のようです。
毎日3食出ますが、入浴は週3回が基本。平日夜や土日は、テレビを見たり、本を読んだり、割と娯楽を楽しむ時間もあるそうです。
刑務所内の見学のときに単独房のモデルで、テレビが設置されていたことも驚きでした。
年々、受刑者数は減ってきていますが、再犯率が少しずつ上がってきています。
その理由はなぜか?
出所した人が困るポイントとして、「住むところがない」「就労するところがない」この2点です。
これはどちらかだけ揃えばよいものではなく、両方確保する必要があります。
確保するためには、地域住民の理解が進むことで初めて出所者が受け入れられます。
更生保護施設など応急的に入ることができる施設はありますが、出所者の中には嫌だと言う方もいます。
出所するまでに、刑務所が就労支援したり、住むところの斡旋をしたりはするものの、就労先が決まっていても就労開始の日に行かなくなったり、行っても人間関係がダメだったり待遇が悪かったりで辞める人が多いのも事実なのです。
刑務所側での支援や地域住民の方々の理解、住むところや就労先に関する方々の協力など複合的に支援していく必要があります。
青森県では再犯防止に努めるべく、「青森県再犯防止推進計画」という施策が実施されています。
青森矯正展を通じて地域住民に伝えたいこと
青森矯正展の目的は、冒頭にも記載した通り、収容されている受刑者・少年の改善更生・社会復帰のため、矯正行政が果たしている役割や日々の教育活動・改善指導などを紹介。
出所者等を地域で受け入れていたただくため、矯正行政に理解を深めてもらったり、出所者等の再犯防止に繋げることです。
しかし、「刑務所が実施していることを理解してください」と直球に伝えてもなかなか興味を持ってくれないのが実情。
であれば、どんな形でもいいので刑務所に触れる機会を設けて、そこから少しずつ矯正行政の理解をしてもらえればということが刑務所および矯正機関の想いです。
実際、青森矯正展の来場者にインタビューしたところ、以下のような声がほとんど。
「子供が楽しめるイベントやブースがあるので家族で来ました」
「りんご娘のライブを観れるので」
「息子・娘がステージに出演するので家族で来ました」
実際の目的についても質問したところ、「刑務所でやっていることを理解するため」という声はちらほらあったものの、地域住民が出所者の社会復帰を受け入れるための理解をするということの認知は、もう少し必要という印象でした。
青森矯正展というイベントを機に、刑務所の取り組みや社会復帰支援の理解に是非努めていただければ幸いです。
青森矯正展の出店者に、どのようなきっかけや想いで出店されたかをインタビューしたところ、
「青森刑務所さんからのお声がけで、一緒に盛り上げたいと思いました」
「年に一度のイベントで楽しそうだから」
「色んな世代のお客さんに触れることができそうで新鮮だから」
と前向きなコメントが多かったです。
地域のお店を始め、地域住民の方々も一緒になって矯正行政の取り組みの理解や普及のきっかけづくりをできればと思います。
青森刑務所とは?
青森刑務所は、法務省の仙台矯正管区に属する刑務所です。
仙台矯正管区は、宮城県仙台市に所在し、東北6県に設置されている刑務所・少年院・少年鑑別所の適正な管理及び運営のため、青森刑務所含め施設に対する指導・監督等の業務を担っている機関です。
青森刑務所がある仙台矯正管区について
https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei08_00002
青森刑務所の所在地
青森市街地に近い位置にある。青森刑務所のすぐ隣には、青森県立図書館があったり、車で10分圏内にはイトーヨーカドーやニトリ、コンビニ、高校などもあるような場所です。
青森刑務所の収容人数
347名(うち被告人21名、定員702名)※2023年7月時点
青森刑務所の収容対象
主に犯罪傾向が進んでいる(処遇指標B)20歳以上の男子受刑者です。
刑期が10年未満、平均刑期約3年、平均年齢は52.0歳。東北6県及び関東で刑が確定した者の一部の受刑者を収容しています。
青森刑務所での主な罪名
窃盗、覚醒剤取締法違反、詐欺
青森刑務所の矯正処遇(改善更生及び再犯防止のための取り組み)
刑務作業の種類
1、生産作業
木工、金属、洋裁及びその他
2、自営作業
炊場、営縫、洗濯及び内掃
3、職業訓練
a、建築塗装科(年2回開講・期間6ヶ月・店員3名)
b、フォークリスト運転科(年2回開講・期間3ヶ月・店員6名)
c、工芸科(年3回開講・期間6ヶ月・店員5名)
d、漆器科(年2回開講・期間3ヶ月・店員5名)
e、ビジネススキル科(年2回開講・期間3ヶ月・店員10名)
4、社会貢献作業
近隣の公共施設等の備品を無償で修繕等する作業。
木工作業においては、モダンで創作的なデザインを取り入れた独自の家具製作のほか、受注に応じた木工製品の製作を行っています。
また、洋裁作業においては、主に企業の受注に応じて衣類や浴衣、エプロン等各種の縫製を行っています。
なお、そのほかにも地場産業の物品等の組立加工を実施するとともに青森の伝統工芸である津軽塗りに取り組んでいます。
作業報奨金
出所時に支給される更生のための資金
青森刑務所の沿革
青森刑務所は、明治4年に仮監獄倉として開設された。1874年(明治7年)に未決・既決の被収容者を拘禁する施設として建設され、1929年(昭和4年)に現在地へ移転しました。
現在地に移転してから50年後の昭和54年に全体改築工事が始まり、平成14年に改築工事が完了し、現在に至っています。
青森刑務所の概要
所在地
〒030-0111 青森県青森市大字荒川字藤戸88
アクセス
●JR青森駅から車で約15分(青森中央ICから約1km、車で約2分)
●JR青森駅からバスで約20分(バス停「青森刑務所前」、青森駅から約4.7km)
●JR新青森駅から車で約15分
TEL 017(739)2101
FAX 017(739)2791
青森刑務所
https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00019.html
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