中傷投稿への「いいね」で杉田水脈議員に賠償命令 名誉棄損などの不法行為に該当
日本の最高裁第1小法廷(安浪亮介裁判長)は、SNS上で中傷投稿に「いいね」を押したことが不法行為に該当するかどうかを巡る裁判で、賠償を命じられた自民党の杉田水脈衆院議員側の上告を退ける判断を下しました。この決定は8日に行われ、杉田議員の敗訴が確定しました。
裁判官5人全員一致の結論であり、裁判所は詳細な理由を述べていません。SNSで他人の投稿に対する「いいね」が不法行為に該当するという判断が最高裁で決定したのは、今回が初となります。
この訴訟の背景には、2018年に杉田議員が、ジャーナリストの伊藤詩織氏に対する性的被害を訴える投稿に対して、X(旧Twitter)で投稿25件に「いいね」を押した行為があります。伊藤詩織氏は自身の名誉が傷つけられたとして、220万円の賠償を求めて提訴しました。
今回確定した判決により、SNS上での行動が法的な影響を及ぼす可能性があることを示す重要な事例となりました。
55万円の賠償命令 「いいね」という行為の加害意図
2022年10月の高裁判決では、「いいね」の行為が投稿に対する好意的・肯定的な感情を示すと一般に解釈されると指摘されています。その一方で、「いいね」を押すかどうかという二者択一の特徴もあり、実際の目的を判断するには、押した人と投稿で取り上げられた人との関係性や経緯を考慮すべきとしています。
その上で杉田議員のケースが検討されており、同議員がネット番組などで伊藤詩織氏の批判を繰り返していた中、多数の中傷的な投稿に「いいね」をした行為から、名誉感情を害する意図があるとして認定されました。
杉田議員の公人としての影響力も考慮され、社会の通念上許される範囲を超えた侮辱行為であると結論付けられました。結果として、請求を退けた一審・東京地裁判決を変更し、55万円の賠償を命じる判断が下されました。
これまで、SNS上での名誉毀損やプライバシー侵害に関するリポスト(リツイート)による賠償命令の例が存在する一方で、今回の訴訟の一審判決で「非常に抽象的、多義的な表現行為に留まる」と言及されるなど、「いいね」による加害意図は認められにくい状況にありました。
この状況について、SNS問題に精通する中沢佑一弁護士は「今回は国会議員が多数回にわたって『いいね』した特殊な事例で、一般のユーザーで同じ判断が出る可能性は高くない」とした上で、「誹謗中傷への社会全体の態度は厳格になっている。SNSでの振る舞いに責任が伴うということを改めて確認する機会とすべきだ」との見解を示しています。